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089話 術師捜索その8

 昼前に到着したヴィゼンは、その時点で騒がしかった。


 街の砦門を警備する兵たちが、そわそわと街中の様子を気にしている。門から見える街中には、奇妙なことにこの時間帯にも関わらず人っ子一人見当たらない。


「何かあったのか?」


「ああ、それがね。今日は中央広場で処刑があるんだよ」


「公開処刑か……」


 極めて悪質な犯罪者について、都市政庁は民衆の前での処刑を執り行うことはままある。人々はそれを恐れながらも、完全に制御された惨劇を心のどこかで希求してしまい、多くの公開処刑は娯楽として見物人が詰めかける。きったはったは仕事だけで十分だったし、スプラッタ趣味もないので俺はあんまり詳しくないが。


 門番が浮ついているのは、見に行きたい気持ちと職責の板挟みか。まったく。


「ちなみに、罪人の名前と罪科は?」


「罪は異端の罪、何でも魔術師だったらしい」


 俺と門兵が話し込んでいるのが気になったのか、もう一人の門兵もくちばしを挟んでくる。


「名前は不明。なんでもカストラスとだけ名乗って、フルネームは黙秘しているんだと」


 俺はむせかえる。




 ヴィゼン中央広場。


 大都市と表現するほどでもないこの街の中心に位置する広場は、住民たちでごった返している。


 必然、俺たちが紛れ込むのも容易い。


「……あれか」


 人垣のむこうにちらちらと見える絞首台。両脇をがっちり処刑人に挟まれ、両腕は縛り上げられ目隠しをされた男性。


 距離はあっても見間違えない、俺には《信業》で強化した視力がある。あの日、学術都市レグマで別れて以来の彼だ。ヒゲが伸びているのは、収監されていて剃れなかったか。


「俺の目当てのカストラスだ。……ウィーエ、そっちはどうだ?」


「はい、私も探していた方であっています。良かった、見つけられて……」


「言っている場合かい。まさに死にそうだけれども」


「そんなワケに行くか、やってもらわなきゃならないことがあるんだ。───くそ、こんな時ばっかりシナンシスの奴、腑抜け(・・・)やがって」


 俺たちに一言の断りもなく、シナンシスは義体から意識をどこかへやってしまっている。文字通り抜け殻の義体は馬車に置いてきている。彼さえ居れば、鶴の一声で都市政庁の死刑執行を止めることも可能だというのに。


 こうなったら力づく以外に道は───待てよ?


「そうだ魔術! 何かないのかウィーエ」


「むっ、無理です無理無理。広場のあちこち、設置されてるみたいです、ジャマー」


「ジャマーって、そこまで……するよなぁ。そうだよな、当然だった……」


 信庁の祈祷神官が研究の末に作り上げた、魔術行使阻害圏発生装置……だったか。魔術発動に必要とされる、発声と印契と魔術陣の三要素のうち、発声を妨害することで魔術の行使を禁じる《遺物》。仕組みとしては音波による攪乱とかだったと思うが、それ以上は関係ないから聞き流していた。俗にジャマーと呼んでいるのは祈祷神官や征討軍の内部だけの話かと思ったが、ウィーエも使っているあたり割と人口に膾炙しているらしい。


 となると、やはり。


「行くのかい、ユーヴィー」


「ああ。マントを」


 バスティの手からマントを受け取って、手早く顔を隠す。今からやることを誰が(・・)やるか知られるのはよろしくない。魔剣もマズい。輝きなき刃、怖気の走る黒剣のアルルイヤは見てわかりやすいことこの上ない。───やっぱり、ジニアに一本普段使い用の剣を用意してもらうんだった。


 つまり最速最短で絞首台まで跳び、カストラスを抱えて逃走する。


「二人は馬車まで走れ。全速力でだ。合流してこの街出るぞ」


「えっ、ユヴォーシュさん? 何をなさる気ですか」


 悠長な言葉を指摘する暇も惜しい。彼女についてはバスティに任せて、今は処刑を止めねぇと!

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