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088話 術師捜索その7

「サイテーだね、ユーヴィー」


 バスティに詰られた。


 ウィーエは手鏡を持って慌てて向こうに引っ込み、しばらくして耳を赤くしながら戻ってきた。


「そんなことよりユヴォーシュさん!」


「あ、はい」


「大変です、カストラスの居場所が分かったんです!」


「本当か。俺、そこについては質問する前に尋問打ち切っちゃったんだけど」


「あの、最後の、読心に没入してしまったときに、混線する思考の中から読み取れたんです! あの方は今、ヴィゼンという都市にいます!」


「どこだそれ」


 バスティが荷物の中から地図を広げる。ベッドの上、三人額を突き合わせて確認するとここからは西になる。朝イチで出れば、馬を急がせなくてもまあ昼までには着くだろう。


「さあ、行きましょう!」


「えっ今?」


 睡眠時間は足りてるが、まだ日も昇っていないのに。モルドリィを出るなら宿の主人を起こさないといけないし、襲撃者───理の庵の六人もどうにかしないといけない。モルドリィ都市政庁に突き出すにしてもこの時間じゃ人もいないだろうし、そうなったら事情説明の義務もある。


 ……面倒だな。


 ええい、いいや。


「雑に行こう。バスティ、荷物まとめてくれ。あとシナンシスを呼び戻して。ウィーエ、“帽子掛け”荘に戻って引き払う準備を。俺はこいつらを片付ける」


「それって始末する(・・・・)って意味?」


「いや」


 どうせこいつら、魔術師やってて後ろ暗いんだから、司法に裁かせちまえば追ってくることはできまいよ。


「都市政庁の正面玄関に下着一丁で放り出す。詳しい事情の調査は、彼らに任せとけばいいだろう」




◇◇◇




 ウィーエの宿泊していた“シナンシスの帽子掛け”荘と、俺たちの宿泊していた“ミスマの誓い”館には一筆したためた。内容は定められた時間外にチェックアウトする旨と、迷惑をかけて申し訳ないという謝罪と、手間賃として包んだ二泊分満額の代金。これだけあれば許してもらえると思いたい。


 理の庵の連中は宣言した通り。身ぐるみ剥いで、縛り上げたまま都市政庁の入り口に陳列してきた。朝になったら、出勤してきた人が通報してくれる。


 荷物とシナンシスを馬車に積み込んで、俺たちは日の出よりも早くモルドリィを発った。なんとなく、学術都市レグマから逃げ出した時を思い出す。カストラスが関わると毎度こうなるのか?


「あの、ユヴォーシュさん。いいですか」


「おずおずと挙手しなくても、ユーヴィーに質問したいならすればいいと思うよ、ウィーエ」


 というか挙手されても、今の俺は御者台に座ってるから後ろは見えない。


「じゃあ。四頭立て馬車を個人所有してたり、宿屋にぽんと代金を支払って下さったり、理の庵の魔術師を撃退したり……。その剣も、ただの剣ではないでしょう。貴方は一体、何者なのでしょうか。とてもただの旅人とは思えません」


 おっと、バレちゃったか。


 嬉しく思ってしまうあたり、まだまだ修行が足りない。……なんて気どってみても、別に俺は隠者ではない。


「俺は……まあ、冒険者だよ。近頃は探窟都市ディゴールでいろいろやってね、ひと財産作ったんだ」


「うわ、もしかして《冥窟》で……?」


「ん、あ、まあ」


「そんな感じそんな感じ」


 ディゴールの《冥窟》がどういう顛末を迎えたのか、大っぴらにすることは避けるよう頼まれている。ハバス・ラズと、オーデュロの二人が連名でだ。無視して吹聴しても罰せられることはないが、別に俺に益もない。俺は“腕っ利きの冒険者”ということで済ませることにした。


「あ、ボクも質問いいかな」


 俺の後ろで、バスティがウィーエに話しかけている。二人で話しているなら、俺が加わる必要もないだろう。俺は遠く、地平線の向こうにヴィゼンを探した。


「ボク、魔術が習いたいんだ。ウィーエが教えてくれたりしない?」


「あ、ええと……。まず、魔術師……というのはよく分からないですけど、祈祷神官なら……。祈祷神官は授業を受けるのに認可が必要ですから、私では」


「いいからいいから。そういうのはね、ボクについては気にしなくていいの」


 ウィーエに助けを求められている気がしたが、そこまで面倒見るのも違う気がして聞き流す。本当に困って迷惑しているようなら止めればいい。


「で、ちょっと気になるのがあってね。《念話》って魔術なんだけれど……」


「あ、ええっと、ごめんなさい、待って下さい」


「なんだい、まだ何か理由があるのか?」


「私は祈祷神官としてまだ半人前、人に教えられる身分ではないのです」


「えーっ、それも信庁の資格とかかい? 気にしなくていいからさ」


「いえ、そうではなく……カストラス家の決まりです。私はまだ家に認められてはいません」


「あれだけの読心ができてかい? どうすれば認められるのさ、それ」


「ですから、認められる(その)ためにこうして旅をしているのです」


「よく分かんないなあ」


 バスティはどうやら面倒になったようで、話をそれで打ち切ったようだった。


 馬たちのリズミカルな蹄の音で、少しだけ眠くなってきた。

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