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087話 術師捜索その6

 身悶えして抵抗する捕虜をギッチギチに縛り上げて、ぴくりとも動けなくする。チョークで宿の床に描いた陣、その上に捕虜がうつぶせに寝かされる。彼のうなじに両手を当てたウィーエが、瞑目する。


 ブツブツと呟く言葉は口の中。以前、軍にいた頃に祈祷神官に聞いたことがある。曰く私たちの詠唱は部外秘だからなるべく聞かないようにしてやってほしい、ただでさえ集中が必要な《奇蹟》行使に、更に聞き耳を立てられていないか配慮するのは結構な負担だから、と。俺は少しだけ距離を取る。


 この状態で俺が質問し、捕虜がそれについて思考したのを掬い取るのだという。質問がないと、思考の方向性が誘導できず濾過ができないらしい。詳しくは、あまり聞いていないから分からない。


 ちなみにバスティは好奇心に(おそらく)瞳を爛々と輝かせてチョークの魔術陣を観察している。静かにしているなら、それでいいものとする。


 改めて、尋問再開だ。


「君は誰だ」


 面白いのは、返事をするのが尋問対象ではなく、ウィーエの口を借りてになるという状況だ。


 他人の思考を読み取り言語化するのにどういった処理が必要なのか、俺は魔術師ではないから分からない。少しのラグの後、


「───ハヤ・モスタム。魔術師……。ことわりの庵」


「理の庵? それは何だ?」


「───魔術師の……秘密結社。制約なく魔術を探究するための……互助組織」


「なるほどね。俺たちを狙ったのは何故だ?」


「───同じ魔術師の私よりも、冒険者の方が容易いと考えた……ようですね」


「ん? ああ……そりゃ動機じゃないな。ウィーエじゃなく俺を狙った理由か」


 質問のし方がマズかったらしい。俺は考えて、


「俺たちを襲った目的は何だ?」


「───カストラス」


 大方そんなこったろうと思ってたよ。だから、知りたいのはその先だ。


「───カストラスの魔術理論は有用……だから言うことを聞かせる方法を探した……私たちが関係者のようだから探りを入れた……」


「人質ってことか。舐めてくれちゃって」


「───我々は魔術の発展のため……自らの手を汚すことも厭わない……本当に? でも……ハヤの根底……行動原理の軸は……魔術師というよりもむしろ、罪悪感」


「ん?」


 聞いてもいないことをハヤ(というかウィーエ)が語り始める。別に彼の価値基準が何を重視しているのかとか、興味ないんだが。


 うつぶせにされているハヤが身じろぎしだす。さっきさんざん抵抗したから縄が解けないのは理解しているだろう。あれは理性的なものではなく、もっと感情的な行動だ。


「───子供のころ、気になる子が……シシリィ……ふざけてからかってたら怪我をさせて、将来の夢も叶わなくしてしまって……それをどうにかしたい、後悔が魔術師の道に入ったきっかけ……」


 読心魔術を行使し始めてからずっとうわ言のようだったウィーエの声が、熱を帯びている。上記した頬、潤んだ瞳、……これは興奮か?


 深層心理に刻まれたトラウマは、その人物の性格や行動に影響を及ぼすというのは理解できる。ヒトの底の底、そう形作った原点に、ウィーエは魅了されているのか!


「ウィーエ、お終いだ、それ以上はマズい! やめろ、覗き過ぎだ!」


 ついには白目を剥いてえへえへと笑いだしたウィーエの肩を掴んで揺する。それで魔術が解除されたのか、彼女は正気に戻ったようだった。


「いいかウィーエ、俺は最後にお前が言ってた内容については聞いてないことにする。だからお前も言ってないことにしろ。いいな」


 いくら襲撃者とはいえ、ハヤにも尊厳が認められてしかるべきだ。ウィーエ自身、踏み込み過ぎたと自覚しているようで素直に頷いた。


 これでよし。やり残しはあと一つだけ。


「それと」


 どう告げるべきか悩んだが、下手に遠回しに言って伝わらないんじゃ無意味だし。ここは腹を括ってストレートにいこう。


 俺は自分の頬をトントンと叩いて示す。


「涎、拭いたほうがいい」

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