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085話 術師捜索その4

 前提確認。


 状況、魔術の気配を帯びた存在の接近。対象の目的、数、練度などは不明。俺(やバスティやシナンシス)目当てではない可能性もあるため、こちらから仕掛けるのは避ける。


 留意すべき点。俺が《信業遣い》であることはこの街では明かしていない。襲撃者が誰かは知らないが、わざわざ教えてやる義理もない。“腕の立つ冒険者”程度で収めよう。


 そう、襲撃者が誰で、何が目的か分からない。だから手加減して、拘束からの尋問が必要になる。もしこれがウィーエの手勢の場合、手下を捕まえてのんびりしていれば彼女に逃げられるから、とっ捕まえ次第彼女とも接触───場合によっては彼女も拘束しなければならない。


 いずれにせよ、当てもなくカストラスを探して訊ね歩くよりはよっぽど事態が動きそうだ。


 アルルイヤは鞘に入れたまま、大っぴらな《信業》はなし。


 さて、どう来る?


 身じろぎもせず待ち構える。《森妖》も真っ青な域まで引き上げた五感は、俺の部屋の扉の前に複数人の息遣いがあるのを知らせてくる。やつら迷いなくこの部屋までやってきた。やはり俺たち狙い(ビンゴ)か。


 お次は鍵だ……と思っていると、何やら別の魔術を行使したのか開錠の音もたてずに押しただけで扉が開いた。魔術感知結晶を作動させていれば感知したかもしれないが、そうすると俺が待ち受けているのがバレるからな。我慢我慢。


 侵入者たちがすり足で踏み込んできたのを確認して、俺は動き出す。


 具体的には、天井から鞘入りアルルイヤを振り下ろす。待ち伏せ自体は警戒していたらしいが、蜘蛛のごとく天地反転している俺というのは予期していなかったらしく、一撃必倒と相なった。


「───ッ!?」


 襲撃者たちは先頭の一人目が昏倒したのを見たのに声一つ上げない。訓練の行き届いた精鋭だ。


 だが遅い。───いや、もちろん反応は機敏だけど、いくら加減していても《信業遣い》に勝てるってことはないだろう。つまり信庁の遣い、神聖騎士ではないってことだ!


「止まって見えるな」


 鈍い音が幾度か響いて、襲撃者たち計六名は折り重なって倒れた。俺は天井から降りてくると、荷物の中からロープを取り出して全員しっかり縛り上げていく。手首足首、口も騒ぎ立てられないよう縄を噛ませて、意識を取り戻させるのは後ででもいいだろう。


 俺は襲撃者たちとバスティが熟睡しているのを確認すると、窓から夜の街へ飛び出す。ディゴールと比べると治安がいいはずだから、あちらより人目を気にしなくていい……はずなんだが。ディゴールでは襲撃なんかされなかったという事実さえ目をつぶってしまえば。


 やがて見つけた“シナンシスの帽子掛け”荘。窓から一部屋一部屋覗き込んでウィーエを見つけるのはナンセンスなので、《信業》を活用する。魔獣テルレイレンを吹き飛ばした時の応用で、ウィーエにだけ作用する()を放つのだ。空気かぜでも振動おとでもないその波は、ウィーエに当たれば跳ね返ってくるから位置を割り出せる。二回もやれば、それで彼女の部屋が分かる。


 三階角部屋、いい部屋だ。俺はベランダに降りたつと、カーテンで閉め切られた窓をノックする。すこし間をおいて、もう一度。風のせいと勘違いされないように分かりやすさを意識して。


「なに……鳥か何かですか……?」


 室内からそんな声と人が歩き回る足音がした。彼女が眠っていたのは強化聴覚で把握できている。その時点で彼女が襲撃犯の黒幕というのは考えづらいが、一応、念の為。


「ウィーエ、俺だ。ユヴォーシュだ。……どうしてここに来たか、分かるか?」


 呼びかけに驚いて体勢を崩したのかガタガタと大きな音がする。演技とは思えない迫真の声で、


「───夜這い、ですか……!?」


 ……彼女は犯人じゃないな。

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