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084話 術師捜索その3

「ま、まあいいや。とりあえず、俺はできれば貴方と協力したい。どうだろう?」


「私からもお願いします。手がかりもなく困っていましたし、掟にも誰かに手を借りてはいけないという決まりはありませんし」


 また掟の話してる……。


 他人の行動原理にとやかく口出しできるほどえらい人間ではないが、ちょっと興味が湧くと同時に、ちょっと怖い。


 悪い子じゃないし、カストラスを見つけるまでは同行するんで問題ないだろうけど。


 ん、そう言えば。


 カストラス家の掟に従って彼を探しに来ているウィーエはつまりカストラス家の出だろうし、ウィーエ・カストラスということになるのかな? 彼との間柄は、推察するに父娘とか、叔父と姪とか、そういう感じか。


 ……かわいそうに。あんな人と血縁関係があるというのは、さぞや大変だろう。


「今日はお開きにしよう。実を言うと宿に同行者がいて、紹介したいんだがもう遅いから明日でもいいか?」


「構いませんよ。お互いの宿泊先を伝えあっておきましょう」


 ウィーエの宿は“シナンシスの帽子掛け”荘とのこと。なるほどその縁で、酒場───“シナンシスの大杯”亭に赴いたという流れか。それにしても、今日はよく彼の名前を目にする日だ。酒場に、宿に、本人。……本人。


 ウィーエと別れ、自分の宿(そういえば“ミスマの誓い”館という名前だ。ミスマはもう何百年も前の勇者の名前だった気がするが、詳しくは覚えていない)に帰った俺を待っていたのは、……というか待っていなかったのは、やることもないので死体みたいに機能停止しているシナンシスと、荷物の中から酒瓶を引っ張り出して飲み干し、酔いつぶれてすっかり寝こけているバスティだった。


「人が身を粉にして働いて帰ってきたらこれかよ……」


 神だからいいのか? そんな横暴が許されるのか? 俺、今晩一杯しか飲んでないのに?


 無性にむかっ腹が立ってくる。今ならちょっとくらい反逆してもいいんじゃないかという気分になって、寝こける少女の仮面に手を伸ばす。


「──────」


 止めた。冗句にしてはつまらないしな。


 俺は埃を払い落とすと、布団に倒れ込んでそのまま寝ることにした。風邪をひくような気温でもないさ。




◇◇◇




 ───振動。


 俺はそっと目を開く。室内は暗いが《信業遣い(おれ)》には大した問題ではない。正確な時間は分からないが深夜───未明と言っていい時間帯だろう。こういう仕事(・・・・・・)に持ってこいだ。


 バスティとシナンシスは俺が寝る前と変化なし。


 音をたてないように荷物ににじり寄ると、立てかけていた魔剣アルルイヤを取る。次に枕元に設置していた《遺物》を確認する。


 魔術感知結晶。


 中心に据えられた水晶は、一定圏内の魔術行使反応を検知して振動する代物だ。まず音で発生を知らせ、そののち振動のパターンから距離と規模を分析できる《遺物》。あらかじめ検知しない対象を設定できるので、アルルイヤやバスティたちの義体は除外している。水晶が動かない状況でないと使えない───馬車での移動中などは不可───という点と、シンプルに高価という点を除けば非常に有用な一品である。


 《真龍》を戮した報奨金があれば、こういうものも買える。


 これが反応したということは、近くで新規に魔術行使があったか、魔術を行使した状態で接近したか。偶然の可能性を考える。この宿には冒険者らしき宿泊客もいた、それが《護符》や《魔導書》を持ったまま帰ってきた可能性。こんな夜半過ぎに?


 ありえない。


 物盗りか、……暗殺者か。


 俺は魔術感知結晶の作動を止めると、


「……楽しくなってきたな」


 無声音で呟いて、立ち上がった。

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