068話 龍戮戦線その4
火事になるはずの炎がすべて支配され、《顕雷》とともに火焔の槍を形作る。
「さあお返しだッ!」
回転数が上がって上がって上がり続けて、金属音にも似た高音を上げて撃ち出された赫の一刺。その速度は先の火球の比ではない。これなら避けられまい───そう確信して、命中した。
したはずなのに、その姿が点滅する。
歯軋りをしてニーオは、更に《信業》を強めた。直進して空の彼方に消えるはずだった火の槍を、鋭角に曲げて後ろからもう一発。死角から超高速!
《真龍》は、気づいていないようだった。
にも関わらず、《真龍》の身体はまたしても点滅して回避してしまう。
事ここに至って、ニーオはあの《点滅》が常時発動していることを認める他なかった。いつ攻撃を受けてもいいように準備してあるから、命中した瞬間にブレて座標変更して避けられる。
空間的飽和攻撃の手段はニーオにはない。可能なだけの数の火球を展開して射出するのが精いっぱいだが、それでは弾幕の隙間に逃げ込まれて有効打を与えられない。相性は最悪と言えた。
「手強そうだな?」
「うるさい黙ってろ木偶の坊!」
ニーオの脳が過熱する。彼女の《信業》は攻撃に特化しすぎていて、都市を防衛しながら何かをするのには向いていない。そんな状況で、己の《火起葬》を改造することなど不可能と断言できる。
事態は、極めて深刻だった。
◇◇◇
俺たちを包む業火。
《光背》で受け切って、吹き払おうとしたのは失策だった。龍の息は《信業》によって制御されていて、俺たちは《光背》の狭い範囲から出られなくなっている。
「《光背》では弾けない……。どうなってるんだ」
「《冥窟》と同じ理屈だ。炎の壁は世界の壁、この中だけ特異領域になってる」
つまり、《光背》で吹き飛ばそうとしても世界がそこまでしかないからそれ以上広がらないということか。
俺たちとともに閉鎖空間に閉じ込められたハバス・ラズが、
「ならば……魔剣であれば、可能性はあるか?」
確かに、先ほど核を破壊するために《冥窟》を近道した際は、魔剣で壁床をブチ破れた。
「魔剣ならば、確かに。あれは切り開く概念を内包しているから」
ハバス・ラズは勇んで剣を手に取るが、彼の魔剣は曰く炎陽の魔剣。俺の左手を炭化させたように生体へは有効だが、炎の壁には通りそうもない。
「俺がやる。……アルルイヤなら、いけるはずだ」
魔剣の黒い刀身をそっと突き入れる。炎を斬り分ける感覚があるかどうか、と思ってのことだったが、そのとき予想外の出来事が起こった。
炎が滲んで、刀身の黒が漏れ出したのだ。
揺らめく黒を纏って刀身は倍近くも膨れ上がった。何が起きているのか不明だが、これなら───!
挿し入れた魔剣を振り上げる。《光背》で弾いても弾いても押しやることのできなかった炎が、一振りであっけなく霧散して消えた。
「脱出完了だね」
「ここからは反撃だ。《真龍》め、この《人界》で好きにはさせねえぞ……!」
気炎を上げる俺と、いつも通りのバスティ。その横、未だ座り込んだままのハバス・ラズが困惑した顔を向けてくる。
「待て、ユヴォーシュ・ウクルメンシル。貴様はアレを……討つつもりなのか?」
「ユヴォーシュでいいよ、長いし。放っておけないだろ、あんなん。どう考えても、あっちからドンパチ聞こえるのはあいつだろうし」
ディゴールの方角から爆音が複数響いてきているのは、脱出直後から気づいていた。多分ニーオが、“忘れじの丘”で見せた火焔術を駆使して《真龍》と交戦中なのだ。幼馴染が戦っているのに俺が戦わない選択肢はない、という理由もあるが、そこまで彼に説明するのも手間なので、省く。
「虚仮にされっぱなしも気分悪いし、ちょうどよくブン殴れる《信業》もあるし、やる以外ないだろ」
別に返事は求めていないから、俺は言いたいだけ言うと大跳躍する。
木々の梢を跳び越えて、空には羽を広げ我が物顔の《真龍》と、それに追いすがる星の如き火たち。小脇に抱えたバスティが楽しげに、
「さあ、《真龍》討伐だ!」




