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061話 冥窟攻落その1

 ───試し切りがしたい。


 魔剣アルルイヤを手にしてディゴールへ戻ってきて、最初に思ったのがそれだった。


 決して魔剣の誘惑とかではない。……と思う。ただ単純に、実戦使用でどの程度扱えるのか、確かめてみたいというのが本音だ。


 巻藁での試し切りは、メーコピィの工房で行った。五年手入れされていないにも関わらず、アルルイヤはそれを見事に一刀両断した。……が、それだけだ。


 斬る瞬間に魔剣が俺を操ることもなく、斬られた巻藁が切断以外の結果を見せることもなく。少し背筋がゾクリと来た気がしたのは、魔剣の切れ味に対する恐怖感と説明できなくもない。


 魔剣らしい何か(・・)は、何もない。


 巻藁では不足だったんだろうか。そう思って帰り道に魔獣でも野生動物でも出ないものかと待ち構えてみても、こういう時に限って平穏無事な道中。


 打った当人から説明を聞くこともできないから、実際に試してみる他ないのだ。自分が握り、命を預ける主武器メインウェポンの性能がよくわかりませんなんておっかないったらありゃしない。ロジェスへの再挑戦リベンジも、到底考えられないとくれば、


「な? 俺の気持ちも分かるだろ?」


「いや別に」


 魔剣嫌い(バスティ)に相談した俺が馬鹿だった。


 俺は別の相手に相談することにした。


 幸いにしてこの街は探窟都市、魔獣やらの当てはある。




◇◇◇




 ───彼のその依頼は、都市を震撼させた。


 《信業遣い》ユヴォーシュ・ウクルメンシルの『《冥窟》に潜りたい』という言葉。冒険者組合を通して《絶地英傑》のハバス・ラズまで即座に伝達された。彼はユヴォーシュの意図が読み取れず、苦肉の策で三巨頭の残り───商会の総元締めたる《銭》のゴロシェザ、都市政庁の主管たる《蟒蛇》のオーデュロ───を呼び集める。


 秘密会談は錯綜した。ユヴォーシュが《冥窟》を攻略してしまうのではないかという危惧は未だ晴れていないのだ。


 最終的に、ゴロシェザがどこから知り得たのか、彼が魔剣を手に入れたことを明かした。おそらく試行だろう、という見込みがなされ、特別に許可しようと結論付けられるまで長い時間を要した。


 翌朝、冒険者組合の職員がユヴォーシュへと許可が下りたことを報告すると、更なる問題が発生した。


 彼と共に行動している少女、バスティも同行すると言い出したのだ。しかも、ユヴォーシュがそれを後押しした。


 冒険者組合では一定以下の年齢の人間の《冥窟》への進入を禁止している。例外はなかったが、ユヴォーシュが強く主張したため、通常の同意書とは別の念書を交わすことで特例として許可することとなる。


 都市政庁と冒険者組合は、彼が《冥窟》に一歩を踏み入れるまでに、かなり疲弊した。


 ……なお、オーデュロは信庁の《信業遣い》ロジェス・ナルミエに、この一件について伝達はしなかった。


 もしも彼が知っていれば、その後の展開は大きく変わったことだろう。


 ともすれば、ユヴォーシュ・ウクルメンシルが、《冥窟》を終わらせることはなかったかもしれない。




◇◇◇




「たかが俺ひとりに、大層なことだ。いったい何人いるんだ?」


 今日は《冥窟》突入の日。魔獣テルレイレン討伐の伝手を頼って組合にかけあったところ、思っていたよりも大騒ぎになった。ただちょっと、ジグレードのパーティーに混ぜてもらって魔獣の一体でも斬れればよかったのに、というか組合窓口でもそう言ったのに、わらわらと集まってきて御覧の有様だ。


 冒険者組合から五人。都市政庁から三人。組合が選抜したという冒険者が十人。そして、


「そうは言うがな、ユヴォーシュ殿。貴方は自分がどれほどの影響力があるかご存じないのだ」


 冒険者組合のトップ、《絶地英傑》のハバス・ラズ。


 彼が同行すると聞いた時は仰天した。俺の頼みがそこまで責任問題になると知っていれば、気軽には頼まなかっただろう。《冥窟》に潜るのは一回やってみたかったからいつか頼んだかも知れないが、試し切りはそこらへんの野良魔獣あたりで済ませたのに、とは今更言えない雰囲気だ。


 まあ、遅かれ早かれだったと思うことにしよう。


 前向きに行こう。


 《冥窟》へ!

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