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056話 盟神探剣その9

「おかえりユーヴィー……どしたのその服」


「え? ああ……」


 ニーオと激突した時の熱と余波で、着ていた服はズタボロになり果てていた。端は焦げてすらいる。とてもまた着れるとは思えない。


 俺は服を着替えながら、宿の床を見る。服は替えればいいが、床の焦げ跡はそうもいかない。ニーオの大騒ぎで注意がそれて、ムールギャゼットの《虚像の魔導書》の痕跡破壊あとしまつを見逃した結果だ。ちゃんと聴いていれば発火と同時に燃え移らないよう引き離したり、そもそも出火を阻止したりできたろうが、あの瞬間はそれどころではなかった。


 この状態のまま部屋を出れば主人が何と言ってくるやら。俺は床板が元に戻るよう《信業》を制御する。


「剣も直せればねぇ」


「魔剣を手に入れるからいいんだよ」


「まだ言ってる。まさか本当に山登りするつもりかい?」


「当たり前だろ」


 ニーオとの再会、そしてロジェスとの遭遇は、俺にいっそう『魔剣を手に入れる』という決意を固くさせた。自由にやっていくにはもっと力が要る。そしてどうせなら、その力は子供のころ絵本で読んだような魔剣がいい。


 俺とバスティは、アファラグ山へ行くことにした。




◇◇◇




 征討軍の任務には、山岳での行動も含まれている。


 専任のレンジャー部隊とまではいかないが鍛えられていると胸を張っていいはずだ。まして今の俺は《信業遣い》、多少の無理は通してしまえる。冒険者組合に掛け合って、折れたものの替わりの剣も借りてきている。手には馴染んでいないが、そこは目を瞑るしかあるまい。山中での捜索活動の準備も万全だ。


 ───そう、捜索活動。


 剣工ジーブル・メーコピィの所在地は、アファラグ山中のどこかまでしか判明していない。詳しくはムールギャゼットが語っていたのかもしれないが、間の悪いことに聞き逃してしまった。こちらから再接触する方法は分からないから聞き直せない。そして、『魔剣を探し回っている』と既に噂になっている俺が今度はジーブルとやらの居所を探り始めれば、魔剣がどこにあるか答え合わせをしているも同然となってしまう。


 あとは、地道に足で探すしか残っていなかった。


 何とかなると思っていた。


「もう帰ろうよユーヴィー。ここまでしなくてもいいじゃないか、一流は道具を選ばないものだよ! その剣だって似合ってると思うけどね」


 俺が思うよりはるかに、後ろのお荷物(バスティ)は役に立たない。どころか、足を引っ張ってくる。


 なんだ、そんなに面倒か。というか何なら魔剣そのものを忌避している節すらある。


 こうなるとバスティは頭数に数えられない。自分の足で歩けるにも関わらず頻繁に手を貸すよう要求し、甘い言葉と不機嫌さで交互に攻めてくるのを耐え凌ぎながら、しかも山の中を這いずり回る。バスティをディゴールに帰そうと思ったことは数知れず、しかし目を離すとまた何をしでかすか分かったものではないのでそれもできない。一度、本気で山を吹き飛ばして丸裸にすることを真剣に検討してしまった。……そんなことをすれば、ここを住処としているジーブルの機嫌を損ねるという理由を付けられなければ、本気で実行に移していただろう。


 アファラグ山に到着するまで半日、アファラグ山に入ってまる二日。ぶちぶち言い続けるバスティを引きずって、時には上空から一望して庵とやらを探した。


 やっと見つけたそこは、人口建造物ではなく。


「───ここか」


「そう言えば、ムールギャゼットも言っていたねえ。《地妖ドワーフ》だって」


 中腹に開いた自然洞窟のカタチをとっていた。

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