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053話 盟神探剣その6

 ───逃げたやつらがもう戻ってくる、だから離れないと。彼女はそう言って紫電を解いた。


 遭遇して丸く収まるとは思えない。ここはニーオの言葉に従って立ち去り、後で別の場所で落ち合うこととした。彼女の同行者、覆面の男が残って事情を説明するから大丈夫だろうと言う。彼は黙って肩をすくめる───そういう役回りはいつものことなのだろう、手慣れている仕草だった。ニーオと旅をしているなら無理もない。


 俺とニーオはバラバラに別れ、時鐘十二回、日付の変わるころを待ち合わせ時間に設定した。場所は“忘れじの丘”。そこでなら、ニーオがまた何かやらかしても誰か巻き込む心配はしなくて済む。


 ひとまず宿に戻った俺は困惑した。


「俺の上着が……」


 燃え尽きていた。




◇◇◇




 ───カラーン、カラーン。


 六組目の時鐘が鳴り、真夜中。


 月の下、俺とニーオが向かいあって立っている。


 バスティは今回も宿にいる。俺以外の、信庁に属する《信業遣い》と会うのはまだ避けたいとか言っていた。俺がニーオなら大丈夫とでも言ってやれば来たかも知れないが、俺自身の記憶が、そんな気休めの言葉を吐かせなかった。


 身長が半成人のころからたいして伸びていないので、ニーオは下から覗き込むように俺の面貌を探っている。……思えば、こうして話すのは(さっきのを除けば)もう何年振りなのだ。


「───改めて、よう。久しぶり、ニーオ」


「だな、ユヴォーシュ。……だよな?」


「ああ」


 互いに恐る恐るの対峙となった。俺は彼女なら火の竜巻を起こしても不思議ではないと知っているし、彼女は逆に俺が《信業遣い》になっていたと知らなかったのだろう。


「この街に二人いる《信業遣い》って、お前だったのか。……いつ目覚めたんだ?」


「半年ちょい前だ。まだ慣れない」


 ニーオが眉を上げたように見えた。


「こんなところで何してんだ?」


「こっちの台詞だよ。信庁から派遣されてきたのか」


 ははあ、という顔をされる。昔、俺たちが半成人のころ、彼女が同じような表情を見せたことがある。決まってそういうときは、俺が鈍くて気づいていないこと・無知で知らないことを彼女は分かっているのだ。


「お前、アタシのこと知らないのか。───信庁属じゃないな?」


 彼女は語る、信庁にアタシ以上の自由人はおらず、それを知らない神聖騎士もいない、と。


「アタシが派遣されてきただって? ないに決まってるだろ。大体の都市付き神聖騎士たちは、アタシに『こっち来るな』って思ってると思うよ」


「それもどうなんだ。というか、ホントに変わってないな……」


 ニーオは、幼少のみぎりから極めて強烈な性格を持て余していた。学院でも問題児のレッテルを貼られ、それを自分で妥当な評価だと証明し続けていた。彼女は苛烈で、迅速で、情け容赦がなく、善悪のブレーキが壊れていた。


「お前が言えたクチか、ユヴォーシュ。お前はいつでも『自分は普通だ』みたいな顔をして、いざって時は一番ブッ飛んでるくせに」


 心外だ。さも俺まで問題児みたいな言い草をしないでほしい。


 ……まあ、昔の話はさておき。


「俺は信庁には属してない。無所属だよ」


「いやー、やっぱ、お前ヘンだよ。自分が何言ってるか分かってるか?」


「いや?」


「アタシですら信庁には属してる。お前みたいなヤツ、他に知らないぜ」


 アタシですらとか自分で言うか。まあ、俺も類似例は知らないが。


 ……バスティに唆されて、ディレヒトを脅して自由を勝ち取ったという事実は彼女には打ち明けない方がいいだろう。バスティとニーオは、きっと妙なところで馬が合う。

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