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052話 盟神探剣その5

「何だぁっ!?」


 窓にはりつく。ここからでは何も見えない。俺はそのまま外に飛び出して、空気を踏みしめて屋根よりも高い位置から轟音の発生源を確認する。


 西の方角から火の手が上がっている。


「火事だ……! 火が!」


「ボクも! ボクにも見せてくれ、ユーヴィー!」


 騒ぐバスティを回収しに部屋へ戻ろうとした俺は、その足を止めることになる。火災の現場から目を離せない、離す暇がない。火焔が渦を巻き、夜の空へと昇り始めている。


「竜巻だ……!」


 天に炎が吸い上げられていく。火焔の明かりの中、俺には別の光源が見えた。


「───《顕雷》!」


 あの渦は《信業》によるもの。断続的に竜巻の周囲に発生しながら、竜巻を空へ送り去る。やがてディゴールに静寂と、正しい夜の暗闇が帰ってきた。


 ロジェス・ナルミエ。俺を除いては、この街にいる唯一の《信業遣い》。彼が、これを?


 俺は彼のことを語れるほどよく知らない。だがそれでも、違和感がつきまとう。以前、大ハシェント像の足下で戦ったあと、彼が《割断》の二つ名を受けていることを聞いている。あの火焔が彼のものとは思い難い。


 だが、あれが彼の仕業でないとすれば、別の《信業遣い》がいることを示唆している。誰であれ驚嘆すべき異能の使い手であり、同時に信庁に属する者であるはず。───ロジェスと同じように、俺とみれば斬りかかってくるかも。


 それでも、確認しないことには始まらない。


「ちょっと行ってくる。バスティはここで待ってろ!」




◇◇◇




「ああっ、待ってくれよユーヴィー!」


 バスティの悲しい声が届いたかどうか。ユヴォーシュは窓から飛び(・・)出して行ってしまった。鳥か何かのような軌跡を描く彼に、彼女では追いつく手段がない。仕方がないから現場だけでも眺めよう、と思って窓に近づく途中、不思議な音がした。


 ぼんっ、と何かが小さく爆ぜる音。


 振り返ると、部屋の中心に広げていた《虚像の魔導書》が発火するところだった。


「あっ」


 二人そろって完全に失念していたが、爆発が発生していても《魔導書》はそれを意に介さず再生され続ける。ムールギャゼットの言葉は、最後にこう締めくくられていた。


 ───この魔導書は証拠隠滅のため、再生終了と同時に自動的に破棄されます。それでは。


 バスティは、大慌てでユヴォーシュの上着を引っ掴むと、ばしばしと叩きつけて消火し始めた。




◇◇◇




 上空から火災現場へ接近すると、そこは“ハシェントの日時計”亭だった。


 屋根に大穴が空いて、その縁が黒焦げている。内側から外側へ吹き飛んだらしく、屋根に破片が転がっている。何をすればこんな破壊が引き起こされるのか。


 決まっている。《信業》だ。


 天井の穴から覗き見るに、店内で動きはないようだ。人の気配がしない。……まさか皆殺しにされているのか、と心配したが、どうやらそもそも誰もいなくなっているらしい。あれだけの竜巻の直下であれば、それ以前に天井が吹き飛ぶような出来事があれば、客も店員たちも逃げ出すのは当たり前だ。


 そっと降りて、“日時計”亭の入り口から内部を伺う。……と。


「かかったぁ!」


 紫電が走る。視界が歪む。


 威勢のいい声と共に、俺は何かの罠に落ちたのだと理解した。


「へっへっへ、アタシ頭いー! 《信業遣い》がいるってんなら、《顕雷》を見せればほーら釣れた!」


「単純に野次馬、という可能性は考えなかったのか」


「………………あ」


 二人で会話しているその内容も気がかりだが、俺は別のことに気を取られていてそれどころではない。会話よりも前、第一声で硬直してしまって避けられなかったのだ。


 その声に聞き覚えがあったから。


 何故、と声を上げようとして全身ぴくりとも動かないと分かった。彼女(・・)が仕掛けた《信業》のせいだろう。通常の力ではどうにもなるまいが、ならば超常の力なら。


 俺が《光背》を展開すると、その分だけ自由になる。紫電に《光背》で抵抗を続けて、その間に。


「おーっ、生きのいい《信業(ギフ)…………え? ユヴォーシュ? 何でお前、ここにいるんだ!」


「それは、こっちの台詞だニーオリジェラ……」


 両目と口をまるまると開いてこちらを見ているのはニーオリジェラ・シト・ウティナ。昔から周囲にはニーオと呼ばせているし、俺もそう呼んでいた。


 ───俺の幼馴染だ。

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