513話 不自由論その3
「分からないわ。私が貴方に負ける理由などない。大神ヤヌルヴィス=ラーミラトリーは《真なる異端》にも完勝できるよう調整を───」
「だからさ」
神サマは学習しないのか? 自分の中で議論を完結させて、勝手に話を進めるなってこれで二度目だぜ。
「俺に負けるなんて言ってないだろ。あんたに勝つのは《暁に吼えるもの》だ」
「──────ッ」
対面して初めて、彼女が言葉に詰まった。グジアラ=ミスルクにとっても、かの悪神は油断ならない大敵なのだろう。分かるぜその気持ち。俺にとってもアレは最大最悪の敵手だったし、きっとこれからもそうさ。だが、だからこそこの交渉が成立するんだから、世の中儘ならないもんだな。
「ヤツらのことは俺が一番よく知ってる。なにせ一時は俺もそうだったからな。俺がいなければ《九界》は《暁に吼えるもの》の再侵攻を受けて、破滅するとは限らないが───まあ大惨事は避けられないだろうな」
「貴方が居ればどうにかなると? 大言壮語も甚だしいわね」
「そう思うなら滅ぼせばいい。けれど無視はできないはずだ。本当に俺のことがどうでもいいなら話し合いの場なんて設けず消すだけだろう、あんたは?」
俺のことを欲しがったのはそういうことだ。それと知らせずに《暁に吼えるもの》の侵攻に対する尖兵にするつもりだったんだろうが生憎だったな。俺のことを言いくるめられると思ったら大間違いだ。
もう、そういうややこしい渉外を任せられたバスティとは手を切っちまった。これからは俺が自分で考えて俺の人生を切り拓いていくしかないから、これくらいはな。
「《人界》に帰ること、貴方の要求はそれだけ?」
「俺と、ヒウィラ。それと《九界》に敵対的でない《真なる異端》たち。そういう連中を大神真体で裁かないと保証してくれ。誰も彼もがスプリールやロジェスみたいに世界ごとまとめて何もかもブチ割ってやろうって輩じゃないはずだ。機械的に断罪せず、コミュニケートする猶予が欲しい」
「もしも《九界》に害なす存在であったなら、どうするのです。その責任を取るのですか?」
「取るさ。そういう奴だったらそんときは他所に行ってもらうっきゃない。それが出来るのは、あんたも既に承知してるだろう?」
《真なる異端》を探し出してコンタクトを取る。そして敵対が避けられないなら《九界》から出て行ってもらう。どちらも実現不可能なことじゃない。俺の第一の《信業》───《光背》があれば成し遂げられる。
かつて《暁に吼えるもの》を探し出し見極めたように。
かつてロジェス・ナルミエを《九界》から追放したように。
俺なりのやり方で《九界》の守護に貢献してやる。だから、少しばかり特例を認めてくれたっていいじゃないか。
そう考えて、内心でドキドキしながら要求をつきつける。さあ、果たして通るのか。身構えていると返答は是でも否でもなく、まったく予想外の方向からの……質問だった。
「貴方はそれでいいの?」




