507話 救世光背その7
押し返す。迫りくる。そのたびに鐘声が鳴り響くように骨が砕けた。
この音が強まれば強まるほど脈は弱まっていくんだろうな、とまさしく痛感する。間隔は狭く、苛烈に過密に襲い掛かってくる新世界。
耐えるなどとてもとても、笑えもしない夢物語。
「──────ッ」
まだ生きていること以外、《魁の塔》で殺されたときよりもマシな要素が一つたりとも存在しない。責め立てるのは肉体のみならず、果てなき苦痛は精神すら直接的に殺しに来ている。
死ぬべきだ。死ぬしかない。死にたい。死なせてくれ。どうしてまだ死んでいない、死ね死ね死ね死ね───繰り返される神罰は単調でありながらなぜか全く慣れることがないという特性を備えており、よって傷つく不完全な存在であればいつかは必ず削り切られる。精神が先に音を上げて無抵抗に喰らい尽くされるか、神威の波に押し流されて肉体が消滅するか、二つに一つ。
もうやめよう、十分だ、私たちはよくやった。諦めたって誰も責めないから、ここで終わりにしよう。そんな言葉が思考を過ぎる。それすら押し流す激痛がなければ、あるいは右手から伝わる感覚がなければ、とっくに折れていただろう。
伝わる血の温もりがなければ、とっくに。
彼がまだ握ってくれている。その手を離さずにいてくれる。一緒に耐えて戦っていられる。ならば諦める理由などどこにもない。彼女はすでに自分の名前も分からないぐらいに痛めつけられているけれど、肉体も心も聖なる嵐に引っぺがされてもう残っていないほどだけれど、それでも、
魂がまだここに在る。
彼と共に在りたいと願った彼女がまだそこに居る。
それならもう、何もいるものか!
「あ、あああ、ああ───あああああああああああああッッ!!!!」
歓喜に咽ぶように、女が叫ぶ。領域を拡大せんとしていた大神ヤヌルヴィス=ラーミラトリーが徐々に圧され始める。二人でも均衡状態に持ち込むのが辛うじてだったところが、彼女の意地が単独での大神への拮抗を成し遂げる。
男がにやりと笑った───のだと思う。既に彼も、全身の肉は寸断され骨は砕け意志のみがそこに立っているような状態。とても随意に表情筋を動かせるようには見えず、そう見えただけの見間違いの可能性の方がよほど高いのだ。けれど大神は、彼が破顔したのだと認識した。
歯を剥き出しにして、勝機にかぶりつく獣の如く。
「ここ、だ───」




