502話 救世光背その2
いっぽう、奇妙な同行者───ジュウェヌは好奇心が勝るのか、
「何も出来なくてもさァ、やっぱ祭なら新入りの俺たちにだって楽しみがあって然るべきっしょ! つーわけでメイさん、俺行ってくっから!」
「……お前、ここで待機してろって言われただろう」
「誰が見てるワケでもないんだし、大丈夫ダイジョブ! 待ってろバカ騒ぎ、今行くぜーっと……」
ジュウェヌが出向くまでもなかった。
瞬間、大議場の外壁が爆ぜたのだ。
広い議場内を爆風が吹き抜け、ジュウェヌとメイアウィスは高速回転を続けている《大いなる輪》を庇うように割って入る。ついにここまで到達した何者かにとって、果たして時間稼ぎすら叶うだろうかと思いながら。
崩壊した瓦礫を踏みしだいて軽い足音。
姿を現したのは、まさかこんな場所で姿を見るとは思わなかった存在───魔族、《悪精》の女性。
つまりヒウィラ・ウクルメンシルなのだが、二人はそれを知らされていない。
彼女は煙をかきわけて出てくると、議場内の二人を見て、
「まだ居るんですか。全く《人界》はつくづく……」
《無私》のンバスク、《燈火》のディレヒト、《醒酔》のナヨラ。一応は加勢側だったとはいえ《鎖》のメール=ブラウ。機神ミオトと言うべきか判然としないが《指揮者》ガムラス。もっと遡れば前線都市ディゴールで襲撃してきた《割断》のロジェス。
ここに至るまで、もう何人の神聖騎士を捌いてきたことやら。もう終わりだろうと思っていたところに知らぬ顔ぶれが追加で二人とくれば、ボヤキたくなるのも当然と言えた。
健やかな間の《人界》は《九界》の他の世界と比べてめっぽう頑丈だ。なにせ《魔界》や《龍界》では敵対が基調なところを、彼ら神聖騎士たちは協調を原則としているのだから。小神たちの威光が翳り、騎士たちが独自の勢力を築いて魔王の如くになる末世にでもならないと、攻め込んでどうにかなる域にないのだ。
魔王あたりが攻め込んでも、迎え撃つのが魔王と同格の神聖騎士、最大で九名だなんて。悪い冗談にしてもこれっぽっちも笑えないから出来が悪い。
そんな聖究騎士をねじ伏せてここまで辿り着いたヒウィラ自身については特に考慮していないのは、彼女らしいと言えよう。
「……おねーさん、魔族か。びっくりした、何でこんなところに居るのさ」
言葉に隠れた刺々しさは、数日間だけとはいえともに旅したメイアウィスでなければ感じ取れないものだった。何事が起きようとも飄々としていたジュウェヌが、その瞳に敵意を宿している。
臨戦態勢に移るんじゃない、とメイアウィスは思う。ここで戦いになれば彼女も無関係ではいられないし、そうなればいくらヒウィラが満身創痍でも勝てる気は微塵もしないのだ。




