501話 救世光背その1
「いやァ、すげーことになってるっぽいけどここに居ていいのかね? まァここも重要度としては激タカだろうけどそれにしたってさ、ほらさ。あ、でも俺たちが行ってどうにかなる範疇じゃないかね? ってメイさんならどうとでもなるか、なはははは!」
「……さあ。知らないよ」
聖都イムマリヤは信庁本殿、年次信会の会場ともなる大議場。一方的にかつ矢継ぎ早にまくし立てられる言葉の嵐に辟易しながら、彼女はどうしたものかと思案していた。
彼女はメイアウィス・ジオスティレート。
少し前までは気ままに旅する流浪の冒険者だった。それがあの日───“咆哮の日”と呼ばれる、《人界》ヤヌルヴィス=ラーミラトリーがひっくり返った日に、彼女もまたそれまでの己と別れを告げることとなった。といっても《暁に吼えるもの》の眷属になったのではない。
《信業遣い》として目覚めたのだ。
ガンゴランゼがそうであるように、肉体的であれ精神的であれ強い衝撃を加えられることで《信業》に目覚めるパターンは存在する。それが一際強烈な───《人界》そのものを揺さぶるような混沌によるものであれば、揺り返しも大きくなるというもの。
ちょうど西方をブラついていた彼女は、目覚めたそれが《信業》であるとすぐに理解した。ああ面倒くさい、きっとこの自由なその日暮らしとはおさらばになるけれど、目覚めてしまった以上は仕方ない。信庁ないし神聖騎士と接触しようとして、そこからがまた一波乱二波乱あった。
───どこかへ向かう《暁に吼えるもの》の眷属たちと交戦したり。
───今そこで早口に独り言を吐き散らかしているジュウェヌ・クッカプーケと同行する羽目になったり。
───《転移紋》で聖都イムマリヤに到着したと思ったら、一切の説明もなく神血を流し込まれ、ジュウェヌと二人まとめて聖究騎士に任ぜられたり。
一体あの神聖騎士筆頭、ディレヒトという男は何を考えているのだろう。いきなりそんな役職にされても何もできないとあれだけ主張したのに返ってくるのは「そうか」の一言。抵抗しようにも相手は《人界》最強、信庁そのものとすら評されるのはメイアウィスも知っている(ジュウェヌは知らなかった。こいつはやけに世間知らずなところがあるのだ)。諦めて飲んだ神血は毒かと思うほど苦しんで、悶えて、あれやこれや知識と歴史を流し込まれて、こっちはとっくにキャパオーバーだってのに、
どうにかベッドから起き上がってきたタイミングを見計らったかのように、今度はこの信庁カチ込みと来た。
分かっている、神血から知識は与えられている。《人界》は飽和した想念で永くないから、《大いなる輪》を廻して新しい《人界》に移行しなければならない。侵入者はそれを阻止しようと突撃してきたから守るべきはそこでぎゅるんぎゅるん音を立て、光りながら回転する祭具。
分かってはいても、何か出来るとは───しようとは、思えない。
《人界》や信庁には義理はあれど、だって、何が出来るというのだろう。




