499話 決
「なあ」
「何だよ」
「折角だから聞いておきたいんだが、どうして私に勝ちたいと思ったんだ」
「どうして、って───そりゃアンタに憧れてたからな」
「それは驚きだ」
「そういう顔には見えないぜ。……クソ、言うつもりなんてなかったのに。こんなシチュエーションでもなけりゃ墓まで持っていけたのに。アンタのせいだ」
「私は何もしていない。君の口が軽いのは、君のせいだ」
「質問しただろ。訊ねておいて何の責任もないってのは通らないんじゃないか、ディレヒトさんよ?」
「そう言うな。返礼としては何だが、代わりに一つ、私も本心を白状するとだな───正直、君には期待していた。君は予測不能で、奔放で、考えなしにしか見えなかったけど……それくらい目を離せなかった。惹かれていた、と言ってもいい。私には想像もできない、選ぶことなどありえない道をひた走るユヴォーシュ・ウクルメンシル。……だから、だからこそ、私は君に勝ちたい。私はもう信庁でも、神聖騎士でも、何でもないディレヒト・グラフベルとして、それでも間違っていなかったと証明したい」
───すべては自分のためさ。そう笑うディレヒトに、俺は、
「…………俺はあんたに勝ちたかったと思ってたけど、そうじゃないのかもな。あんたは俺にとっての始まりで、憧れで、全てはそこから始まったから───」
どうしてだろう。なぜかむしょうに涙腺が緩んでしまいそうになる。
ここに至るまで長く、永く旅をしてきて、こんな風に語らう機会なんて金輪際ありはしないと思っていたから。楽しさと寂しさとあれやこれやで胸がいっぱいになって、言葉に詰まる。
「───俺は、俺を信じることにしたんだ。『ディレヒト・グラフベルに勝てる』って」
「……そうか。ならば、教えてやらねばな。ユヴォーシュ、君の敗北を」
「抜かせ」
笑い合いながら。
二人、剣を構える。
あらゆるものを振り絞って、もうすっからかんの空っけつだ。互いに一発入れば終わりと悟っていて、だからこそ勝負としてこの上なく面白い。ここに小技が入り込む余地はない、あとは意地あるのみ。
真っ白な世界、俺たちは走り出し───剣と剣、魂と魂を懸けて、ぶつかり合って。
それが幕切れ。




