表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

498/517

498話   決    6

 直感する。終わりが近い。


 とは言っても、今の俺たちに時間感覚なんて残っているはずがない。空にいて足元不注意のまま激突したから落下しているはずなのに、そういった感覚もない。


 世界はすべて遠ざかっている。


 いつかバスティと語らったとき、《光背》行使時の感覚について『あらゆるものから見捨てられ、引き離されている感覚』と表現したことがある。今は《光背》は発動していない───というか、そもそも名付けられた類の《信業》が機能するような状況にないが、感覚的には《光背》に包まれているときとそっくりだ。


 俺とディレヒトの溢れ出した魂が、《九界》を彼方に押しやっているからここには何もない。


 お高いところから俺たちを見下ろすばかりで、何かやってくれるわけでもないのに崇められて信じられる至高の神、名をグジアラ=ミスルクって言うらしいが。彼だか彼女だか知らないそいつの手の届かないところで、俺たちは二人、踊っているみたいだった。


 俺が剣を振るう。ディレヒトが受ける。


 ディレヒトが剣を振るう。俺が避ける。


 究極的に集中した意識同士の戦いは、本来そこにあるはずの周囲への影響(・・・・・・)すら許さない。これが《九界》上で繰り広げられる戦いなら、いま俺が振るったアルルイヤで地平の果てまでぶった斬れるし、ディレヒトが軌道上に差し挟んだ剣とぶつかり合う衝撃に聖都は陥穽と消えるだろう。


 けれどここには、そういうものはないから。


 もともと気にしていられるような余裕もなかったけれど、だから、この終わりの舞台でなら俺たちは思う存分舞えると感じる。互いに剥き出しの魂の狭間、小難しい理屈の《信業》すら置き去りにして、持てるすべてを曝け出しきって、あとは終わるばかりの最終決戦。


 ───終わってしまうのか、と思う。


 俺は勝ちたくて、何が何でも彼とだけは白黒つけておきたくて、それだけを求めてこの場まで至ったはずなのに───いざ終わりが見えてくると、まだ勝ててもいないくせに猛烈に惜しんでしまう。


 ……だって仕方ないじゃないか。きっと、もう二度とこんな光景は見られない。命の奪い合いという形であれ何であれ、ユヴォーシュ・ウクルメンシルという自分自身すら擲つほどの底のまた底を浚える機会なんて一生に一度。


 これまで会ってきた人々に失礼だから、「この瞬間のために生きてきた」とは言わない。けれど、この瞬間を生きていることも否定しない。


 丘に座って穏やかに過ごす長い午後も、斬り払う剣を寸でのところで躱す刹那も、どちらも等しく俺の人生。


 だから、いつか終わる。


 後悔は引き裂く傷だ。“ああすれば良かった”は魂のみならず世界すら引き裂いて、可能性の名のもとに価値をズタズタにしていく。俺はそんなこと望まない。やるなら前向きに“もしも”を願うばかりで、それだってこの場には不要なもの。


 俺とあんたの間に、最後の最後に必要なのは、そんな言葉じゃないだろ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ