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497話   決   15

 真っ先にそれに気づいたのは《人界》だった。


 仮にも人型を保っていた魂が、今や《人界》に割って入っている。ひずみは《顕雷ひび》となって周囲に伝播し、どうにか排除しようとして叶わず断末魔にも近しい悲鳴を上げる。


 ロジェスがかつて見せた業。魂の顕在化。


 本来、魂に思考などない。


 純粋な力の塊こそが魂であり、心とはそれを世界に合わせて翻訳したもの。心の底にあるネガイが強まれば強まるほど魂は引き出され、ある段階で世界を割って溢れ出す。


 そうなればもはやそこは元の世界ではなくなり、魂の持つ根源的な欲求に支配された異界と化す。それは溢れさせた当人にすら制御不可能。何故なら魂は一個人など意に介さずネガイを叶えるために加減なく際限なく実現するもので、


 そんなもの同士が激突すれば、どうなるか予測すらつかない。


「おおおおおおおおおおディレヒトッッ!!!!」


「ユヴォーシュううううううううううううッッ!!!!」


 顕在化は両者同時。


 それぞれを中心に放射状に広がった魂の領域が接触した瞬間、聖都イムマリヤすら貫いて《顕雷》が迸った。領域は押し合い、その接触面に想像を絶する何か(・・)を創り出しながら───空に二つ、何色でもない太陽が顕現する。


 それは大神の光臨と見まごうほどの威容。


 あるいは、かつて現れた《暁に吼えるもの》の化身にして《真なる異端》スプリール・テメリアンスクが大神ラーミラトリーを弑逆してみせたことを考えれば、《真なる異端》とはそれそのものが大神に等しい存在なのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんでしまうほど、その光景は鮮烈な印象を刻むものだった。


 生き残り逃げまどう聖都の住民たちはその光景に釘付けになる。


 ヒウィラ・ウクルメンシルもまた、立ち止まって空を仰いだ。


 あそこにユヴォーシュがいると、今も戦っていると、一発で分かる存在感が輝いている。彼女は、けれど一瞥だけすると視線を切って振り返ることなく、再びどこかへと走り出した。


 ───あそこで彼が戦っている。


 ───戦いたいと望んで戦っている。


 ───彼は勝つ。そう信じているから、私がすべきは戦い終わった後のこと。


 そう。彼女はあらかじめユヴォーシュに言い含められていた。「ディレヒトとだけは一対一で戦いたい。だからいざというときは、他の連中は頼む」と。そして彼女はそれを請けたのだ。どれほど心配になっても、彼との約束は破れない。


 急がねば。《大いなる輪》の胎動は未だ続く。彼女の仕事はその回収、既に大幅に刻限を過ぎているかもしれないが成すべきことを成そう。どれほど後ろ髪をひかれても、走り出すしかない。

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