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048話 盟神探剣その1

 俺の愛用のロングソードは死んでしまった。


 悔しいが認めるところから始めよう。───俺は敗北した、完膚なきまでに。


 ロジェス・ナルミエが俺を見逃した理由は分からない。だが去り際のあの目を受け止めた身としては、彼が俺への関心や執着を捨て去ったとは思えない。むしろまだまだこれからが本番、もっと何かを求めているようですらあった。いつまたああやって突っかかって斬り込んでくるか知れたものではないということだ。


 同じものを用意したのでは、同じようにまた負けて斬られる。今度こそ胸の傷だけでは済まさないだろう。真っ二つになった自分というのは想像するのは難しかったが、文字通り痛感した実力差は切実な焦りになる。


 どうにかしなければ(・・・・・・・・・)


 オーダーメイドで注文できるだけの金はある。魔獣狩りの報酬が冒険者組合から支払われ、今の俺は自分史上かつてない金持ちとなっている。その気になれば十本でも百本でも用意させることは可能だ。


 だが、ロジェス相手では千本あっても無意味だろう。


 必要なのは数よりも質。唯一無二、かけがえのないものであるべきだ。


 何より、命を託すものに妥協はできない。


「……よし」


 俺は決めた。───魔剣を、手に入れる。




◇◇◇



 魔剣。


 《遺物》である。


 要するに、魔術師によって永続化された魔術の施された、超常の刃。


 カタチに遺る伝説であり、冒険者の夢。


 剣という形から逸脱しないものをこそ魔剣というのだから、とどのつまり、以下の二つしか存在しない。


 一つ、斬った相手をどうにかするもの。


 一つ、相手を斬るためにどうにかするもの。


 斬る(・・)もの。それが魔剣。


 斬らねば始まらず、斬れば終わるもの。


 ならば、何故欲するのか。


 それは。




◇◇◇




「まったく同意しかねるね」


 腕組みをするバスティ。どこからどう見ても憤慨している。……というか、外見的にはお菓子が買ってもらえなくて拗ねている少女のように見えるから威圧感がない。


 俺が久しぶりに出てきて開口一番、魔剣を云々かんぬん言ったことへの怒りかと思っていたが、聞いてみればそうではなかった。


「キミはボクの《信業遣い》だろ。なら《信業》で勝負すべきだ! それを何だい魔剣なんて」


 ははあ、なるほどつまり、


「嫉妬すんなよ」


「ボクはものの道理を説いているッ!」


 ぎー、と歯ぎしりしながら地団駄を踏むバスティ。確かに彼女の言い分も分からなくはないが、ならどうすれば《信業》で勝てるようになるかと考えると練習する(・・・・)以外に思いつかない。もちろん練習はしていくつもりだが、時間がかかるのは目に見えているし、それだけで先達たるロジェスに追いつけると考えるのは楽観視が過ぎる。打てる手は打っておいた方がいい。


「本音は?」


「実を言うと、子供のころから魔剣には憧れてて……」


「ほらみろ!」


 バスティにたれたのは初めてだった。


 話し合いは平行線、バスティの理解は得られなかったが仕方ない。俺はぷりぷり怒っている彼女を置いて街に出ると、「魔剣を取り扱っていないか」と尋ね歩いた。鍛冶屋、冒険者組合、質屋、それと冒険者御用達の低級《遺物》の店……そんなところか。取り扱いがないことは百も承知だし、むしろそんなところにある魔剣なんぞ信頼して使うのは怖い。


 だがこうして練り歩けば、俺の注目度からして噂はすぐに広まる。「魔獣討伐の褒章を持つ《信業遣い》ユヴォーシュが魔剣を求めている」と。あとは、俺に恩を売りたいやつや、魔剣を金に換えたいやつが釣り針にかかるのを待てばいい。


 ……問題は、ロジェスの耳にも遅かれ早かれ届くこと。何が彼の逆鱗に触れるか分からないから、できれば知られる前に対抗策を持っておきたいのだが……。


 俺は焦れる気持ちを抑え、不機嫌なバスティを宥め、じりじりとする三日間を魔剣巡りに過ごした。


 そう、釣り糸にかかったのは三日後の夜。───正しくは、報せが夕方にあった。

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