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042話 都市擾乱その6

 淡々としているように見えるが、肌で殺気を感じる。緊張感で収縮した毛穴で、風もないのに髪が逆立った。


 ロングソードを血振りする。


 男の姿が霞んだ───《顕雷》をバラ撒きながら身体強化を最大限まで引き上げる。


 向き合う俺たちの間で、互いの剣が激突して火花を散らす。


 とんでもない速度、認知を置き去りにする須臾の剣。身体に染みつかせた刻み込んだ剣術で素直に受ける以外の動作は出ない。俺の《光背》は、ああいう害意をこそ受け止められる《信業》であるはずなのに、俺はそれを信じていることができなかった。結果、超高速の二人で普通の剣戟を繰り広げることとなる。


「ッ───何のつもりだッ!」


「何の? 面白い冗談だ、貴様はあの日死んでいるはずだったろう」


 噛み合う歯が軋む。


 全力で膂力を強化して、ディゴールの果てまで吹き飛ばすつもりでロングソードを振りぬき打ちつける。見え見えだったのか衝撃はあっさりと殺され、ロジェスはひらりと身を翻して距離を取る───どこぞの店の屋上に降りたって、俺を見下ろしてくる。


 手加減───など考えられない、一合打ち合うのだって無我夢中だ。


 殺す気で、持てる力すべてで向かわなければ死ぬのはこっちだ。本気の殺意、戦意がそれを沈黙のうちに断言している。


 剣を打ち合う音。一度、二度。どちらも防がねば致命だ。極度の集中によるものか、それとも実際に意識が加速しているのか、時間は粘性を帯びて進んでいく。その中で、剣を受けているのに(・・・・・・・・・)必殺の一閃が襲い来た。


 ───光が、それを弾き防ぎ押し流して吹き飛ばす。


「それが《光背》。やっと出したな、ユヴォーシュ・ウクルメンシル」


 刃は一振り、剣閃は二つ。ロジェスの切り札と思しき会心を、俺はどうにか凌いでいる。それがためか、ロジェスの感情が初めて揺らいだ。これは───




 ───歓び(・・)


それ(・・)は、まだ……斬ったことが、ないな」


 距離を取って構える。とても戦闘中の構えとは思えない。ただ、試し切りに斬ってみろと言われて集中しているようでありながら、凄烈な気迫だけが際限なく高まっているせいで手出しができない。


 そう、これは、《枯界》へ通じた《経》に似ている。


 底知れない想念が一点に偏重し、その質量のみで世界を歪めている。


 彼の重みに破断した世界が悲鳴を上げる。《顕雷》という悲鳴を上げる。


 彼のイノリがその牙を剥く。


 バスタードソードがこの世ならざる煌めきを示す。


 それすら置き去りにするように抜き打たれた白刃。


 俺の《光背》、魔獣を蹴散らしたのよりも強く、強く、どこまでも強く、


 ───斬り分けて入ってくる。ぶち、ぶち、と割断される感覚が俺に返ってくる。そのたび彼のバスタードソードで異なる煌めきが瞬いて、瞬いて、瞬いて、


 それに死力を尽くして抗っているうちに、刃はもう目前まで迫っている。


「う、お───おおおお、ああアアアアアッッ!!」


 衝動に駆られて手を動かす。


 ロングソードが、バスタードソードを受け止める。


 ぎこ、と金属が断たれる感覚が骨身に響いて、




 俺が学院時代から愛用していたロングソードが、半ばからへし折れて宙を舞った。

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