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041話 都市擾乱その5

「へッ───」


 呆気に取られていた俺の口から変な音が漏れる。


 オトは連続し、やがて笑い声になった。


「へッへッへッ、へへへへははははは!」


 そうだ。俺は俺が間違ってると思ってた。


 異端、神ある世にて神を信じられない欠陥者。そんなものが、好き勝手に生きることなど傑作だ。正しい人々を押しのけることなく、慎ましく、慮って生きなければならない、と。何なら《虚空の孔》刑で死んでいればよかったんじゃないかと、心の底で考えていたストレス。色々あって環境が変わって、それが無視できないくらい大きくなっていた。


 でも、そんなこと言ったって、俺はこうしてここにいる。


 神ある世にて神の配剤で生まれ落ちたのだから、俺は、そういうものとして生きていく他ないと腹を括るのが相応しい。


 生きてやろう。


 思うさま、迷惑でも、自由に生きてやろう。


 それで俺が間違っているなら、それは神が間違ってるってことになる。すべては神の思し召し、なんだろう? ディレヒトさんよ。


「やってやるさ、やってやるよ。どうすべきかなんて知らない、好きにやってやろうじゃないか!」


 昂って立ち上がった俺は椅子ごとひっくり返った。───足元がフラつく!


「ええい腹立たしい、俺の足だろ───俺の思い通りに動きやがれ!」


 自分でも実に勝手な物言いだと可笑しく思いながら、




 俺は《光背》を全力でブチかます。




◇◇◇




 その瞬間を、ディゴールにいた人間は例外なく目撃した。


 光の速さと、光の備えない物質透過性で、ユヴォーシュ・ウクルメンシルの《光背》がディゴール全域を貫通した。


 冒険者たちと交戦中だった魔獣テルレイレンを除いては、一人たりとて、被害をこうむった者はいない。


 魔獣のみは、《光背》に圧されるかのように吹き飛ばされたという。そこについても奇妙なことに、吹き飛ばされた魔獣もまた、周囲にいかなる被害も与えなかったというのだ。


 《光背》に打ち据えられた瞬間、位相がズレたかのように。()と同じ、世界に干渉しない側に送られたように。


 本来ならば───何が本来か議論の余地はあるが───いくつもの建物に激突し、壁をブチ破って突き抜け、破片と瓦礫と共にあるはずの魔獣は、光に弾かれてただ(・・)転がった。


 交戦していた冒険者たちも、魔獣自身も、周囲の目撃者たちも、誰一人何が起きたのか理解しない。




◇◇◇




 ───俺は分かっている。


「そこか」


 《光背》で触れたことで魔獣の位置は把握した。


 酒精も、まとめて吹き飛ばした、今の俺は絶好調。


「行ってくる」


「行ってらっしゃい」


 バスティの最初の『い』が終わる頃にはもう、俺は“ハシェントの日時計”亭から飛び出している。空中で叫ぶ。


「───来い!」


 来るのを待たずに空を馳せる。回転しながら正確に俺のもとへ飛来するそれをキャッチする。


 愛用のロングソードを抜きはらった勢いのまま、空を馳せた疾走を殺さぬまま、




 俺の斬り下ろしが、テルレイレンを両断する。


 刃渡りなど関係ない。俺がそうである、そうできると確信して振るえば、これはどこまでも届く刃となる。


「ああ、すっ───」


 魔獣の右半分が倒れる。左半分はバランスが良かったのか立ちっぱなしだ。俺は座ることにする。急加速と急制動で、心情的に目が回りそうだったから、尻を地べたにつけて、


 そのまま、大の字にひっくり返って笑う。


「───きりしたぁー!」


 ディゴールの住民たちが見ている。だから何だ。見たいのだからみせてやればいい。ずっと胸に閊えていたものがやっとスッキリしたんだ、放っておいてくれ。大丈夫、魔獣はぶった斬ったから───


 周囲の喧騒が増していく。


 足音が近づいてくる。


 獲物を奪われた冒険者だろうか。だとしたら申し訳ない。実のところ悪いとは思っていないが、クレームをつけられたらまあ、謝っておこうとは思っている。


 罵声に身構えている俺に投げかけられたのは、存外落ち着いた声だった。


「───これで名目も立つ」


 総毛立った。


 どんな魔獣の唸り声よりも恐ろしい。猛烈な生存本能に突き動かされた俺は、寝っ転がった状態から一息に身を起こしてロングソードを構える。


 奇妙なまでに無感情を装って、信庁の《信業遣い》ロジェス・ナルミエが、バスタードソード片手に佇んでいた。

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