039話 都市擾乱その3
街には人が溢れている。
魔獣テルレイレンの首を求めてうろつくむくつけき冒険者たちの姿で、ディゴールの治安は三割悪化している。どこにこれほどの荒くれどもがいたのかと思う。……《冥窟》か。
《冥窟》は今や金にならないのだろうか。それともバスティの言っていた懸賞金が破格なのか。───《信業遣い》が二人、この街を訪れた影響か。将来の不安から、ある程度安定した稼ぎの《冥窟》を放り出して、一攫千金の懸賞金に賭けているのか。ならば、俺が、彼らの生活基盤を不安定にしている一因たる俺が、《信業》にものを言わせて魔獣を排除するのは正しくないのじゃないか、やはり。
歩いていても思考は迷走を続ける。
この街のどこかに、魔獣と、異端者と、《信業遣い》がいる。どいつもこいつも好き勝手に生きて、俺の心を搔き乱していやがる。
「……うんざりだ」
一度、強制的に思考を鈍麻させてやらねばならない。内心でみじめったらしく言い訳を構築して。
俺は行き交う人を避けながら、“ハシェントの日時計”亭へと足を急がせる。
◇◇◇
───振り下ろした爪が受け止められたことに驚愕を示す。
確かに死角を取った、確かに不意打ちだった。だというのに、爪はジグラードに届かない。
受け止める、交叉した二本の手斧。
「へッ! 情報通りだぜ、こいつを餌にすりゃあ釣れると思ってたんだ!」
「あんま前出るんじゃねえよブレスカ、しかしよくやった! おらジグ、呆けっとしてねえで抜け! その大剣は飾りか!?」
事態に追いつけず混乱しきりのジグラードが振り向いた先には、彼女がちょくちょく組んでいる同業者の徒党がいた。そのうちの一人、ブレスカと呼ばれた男が物陰から飛び出してテルレイレンの一撃を受け止めたのだ。
あまりの驚きに、ジグラードは自分のキャラ付けも忘れて叫んだ。
「なっ、な───お前ら何を!」
「何って狩りさ! テメェはやんねえのかよ、こいつの首にかかってる金を忘れたのか!」
「ッ───」
何故だか知らないがどうやら自分が魔獣に狙われていて、こいつらはそれを待ち構えていたらしい。それだけを理解して、ジグレードは意識を戦闘態勢に切り替える。抜き放ったグレートソードが、路地の壁をひっかいて身の毛のよだつ音を立てた。




