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034話 都市騒乱その8

「───ッ」


「……どうした、バスティ」


 バスティが、弾かれたように振り向いた。会食の帰り道、すっかり暗くなった路地を行く道中だ。


 瞳が見えない彼女の顔から、その感情を推し量るのはなかなか難しい。だが細い肩に漲る緊張感や、いつでも動けるように重心を落とした体勢で分かる。これまで見たことがないほどに緊迫する彼女に、俺もまた緊張する。


 どこだ? ───そして誰だ? 差し当たっての候補は二人、信庁の《信業遣い》ロジェスか、ディゴール都市政庁の女狐オーデュロ。後者の手の者なら、制圧してこの街から逃げ出せばそれで済む。だが前者だと、俺は果たして勝てるのか。対等の能力で、ある程度はバスティを守りながらの戦いとなれば分が悪いと言わざるを得ない。ましてや相手はディレヒトの側近、確実に歴戦の戦士だ。


 腰に帯びたロングソードの柄に伸ばした掌がじっとりと汗ばむ。


 ……だが、事態は俺の予想を呆気なく乗り越えて進行する。


「ユーヴィー。レッサとカリエが危ない」


「は───何だと!? 何でそんな───」


 俺の脳みそはあっけなく混乱の渦中に叩き込まれる。まさか、襲撃者は俺だけでなく、あの二人の少女まで身内とみなして襲うと言うのか。俺はともかくあの二人は関係ないだろう、信庁であれ都市政庁であれそこまでするか、と。


 だがそんな俺の混乱に、バスティはバスティで戸惑っているようだった。


「わ、そんなに驚くとは───本当だよ? ボクには分かるんだ、感覚的に。縁の強さと、距離に応じて……」


「ここの話じゃないのか?」


「えっ? ───誰か、尾行ツケて……?」


 バスティが遠距離の何かを覚知しているなどとは夢にも思わなかったから、てっきり俺の気づいていない追跡者がいるのかと思い込んでいた。何だよ俺の勘違いか───そう言おうとしたら、


「おやァ。おやおやおや、気取られるとは思いませんでしたなァ。流石は《信業遣い》殿」


「誰だ出てこいッ!」


 嘘から出た実と言うべきか、本当に、尾行者が居た。


 ねっとりと不愉快に絡みつく声の主は、暗がりから生まれ落ちたかのようにふっと現れた。赤黒の長ローブ。フードを目深に被っているせいで顔は拝めない。背たけはひょろりと高いし、声質からも男性と断定したいが、レッサの時とジグレードの時にそう思い込んで大層いたたまれないことになったせいでどこか引っかかっている自分がいる。


 奇妙な男は慇懃無礼に身をよじった───どうやらお辞儀をしたらしい。


「初めまして、ユヴォーシュ様。今日は貴方様をお迎えに上がりました」


 気が狂っているのか? こいつ。


 初対面にも関わらず俺の名前を把握しているところと言い、得体は知れないが今はそれどころではない。バスティが警告したレッサとカリエに迫っているという危機(・・)、その対応が最優先だ。フードの怪人に背を向けると、ヤツは慌てて、


「あ、あ、お待ちを、ユヴォーシュ様。私どもは異端聖堂(・・・・)───貴方様と同じく、信庁から敵視される者どもの集いです」


 ───聞き逃せない言葉を吐いた。


「異端、だと───?」


「ええ、はい、その通りでございます。私も、私以外の同朋も、皆異端認定を下された者。それらが───」


 これ以上何か言う前に、この男を確保する。そう決断した俺の周囲を迸る《顕雷》に、フードの奥で男がたじろいだ───遅い!


 俺の拳は空を切った。いや違う、ローブに当たりはしたが肉体がない! 《奇蹟》か魔術か、どっちでもいいが虚像の人影か!


「おやァ。おやおやおや、随分とまた乱暴でございますなァ」


「おやおやウルセえんだよ!」


 別のローブが暗がりから這い出てくる。この様子だと、実体はここにはおらずどこか遠くからこのローブどもを差し向けたか。


「バスティ、先行っててくれ!」

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