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030話 都市騒乱その4

「ごめんね。ウチのジグ姉が迷惑かけて」


「まあ、別にいいさ。暇つぶしにはなるし」


「ジグ姉、強くなかったの?」


「強いさ。俺が《信業遣い》じゃなかったらいい勝負してたと思うよ。俺が今まで会った剣士の中でも五指には入ったと思う」


「……ってことはいい勝負にもならなかったんだ。《信業遣い》コワー……」


 レッサの呟きを聞き流しながらも、俺も同じことを感じていた。研ぎ澄まされた剣術と非論理式《奇蹟》による剛性の身体を、俺は無手で制圧できる。できてしまう。


 ジグレードに全力でと請われはしたものの、俺が出したのは本気ではあっても全力ではなかった。剣も抜かず、《信業》も初太刀を受け止めるのと、《顕雷》の見えない程度の身体強化にしか使っていない。全力でと言うならば、ロングソードに破壊のための諸力を付与して、有無を言わさぬ身体強化で振りぬく程度はするべきだろう。そんなことをすれば、ジグレードの肉体は破片が残るか怪しいものだが。


 別に俺がしたいのはそんな残虐な行いではない。


「───そんな顔するくらいなら、挑戦、断ればいいじゃん」


 自分の潜在能力ポテンシャルに険しい顔をしていたらしい。レッサがどことなく心配そうに見るものだから俺は取り繕って、「いやあ、でも、挑まれたら受けて立つのが男ってもんだし」と答える。───が、正直そこらへんはどうでもいいと思っている。


「《信業》まで使って? 神に選ばれし《信業遣い》様がずいぶん卑近ですこと。やだやだ」


「……いいだろう、別に。使わないと逆に怒る奴もいるんだぞ」


 連日押しかけてくる挑戦者を相手する中で、一度、これなら《信業》も不要かなと判断できるほど素人くさい男がいた。面倒だったので純粋な剣の腕だけでこてんぱんにすると、そいつは「何のために挑んだと思ってるんだ、《信業》を見に来たのに無駄骨だ」とぶちぶち文句をつけてきたので《光背》でぶっ飛ばした。


 レッサは納得していないのか、


「何かさ、別のことすれば? 『今忙しいから』って言えばそんなのも減るでしょ」


 “ジグ姉”のことをそんなの呼ばわりもどうなんだと思ったが、たぶん二人の距離感が近いことの表れであり、心底から侮っているわけではないんだろうと流す。


「別のことねぇ。バスティを見習って俺も読書でもするとか……? いや冗談じゃないな」


 レグマの悪夢は記憶に新しい。俺が禁書庫破りなんぞに手を染めてしまったのも、もとを糺せば俺が活字・活字・活字の生活に疲弊していたからだ。この先どれほど暇を持て余そうとも、俺が読書に没頭することはないと断言できる。


「というかさ。ユヴォーシュってこの街に何しに来たの?」


「……え?」


 レッサの何の気なしであろう質問に、俺は虚を衝かれた。そうだ、暇を持て余すなら本来の目的を果たせばいいものを、何を俺はやってくる連中に律儀に応対をしているのだろう。だが、そもそも、


 俺の目的って何だ───?


「もし」


 ええい今日は背後から声をかけられることこれにて三度目。何用だ、《信業遣い》だという理由だけで物見遊山的に声をかけたとか、また腕試しにやってきたとかなら今度という今度は追っ払ってやると息巻いて振り向くと、声の主は儀典用の服と思しき礼装を着こなした壮年だった。これは───都市政庁の人間の纏うかっちりとした空気だ。


 レッサが急激に襲ってきた緊張感に「ひゅっ」と息を吸い込む音。


 俺だって思いもしない客に面食らっていると、壮年は礼儀正しく簡潔に名乗り、目的を告げる。その目的は驚くに値しないようでいて、その実驚くべき内容だった。いつかそういう日は来るかもしれないと思っていたけれどそれは今ではなく、ええと、だからつまり───


「俺に、政庁の会食に出てくれって───?」


「ええ、左様に御座います、ユヴォーシュ様」


 軍人をやっていたころには思いもしなかった、パーティー(・・・・・)への誘いだった。

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