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028話 都市騒乱その2

「愚弄されているのかと思ったが、まさか裂帛の一太刀すら通じんとは。いやはや恐ろしいものだ、《信業》───《光背》とは」


「はあ」


 これは新しいパターンだ。今までの挑戦者たちは、負ければそそくさと立ち去ったものだった。だというのにこのジグレード、何のつもりかこうして俺をヨイショしては帰ろうとしない。


 俺は朝飯を食ってるってのに、横の席を占拠してずーっと話しかけてくる。


「噂には聞いていたが、それでもこの眼で見るまでは信じられなかったのでな。万一を危惧して峰で斬りかか()ったのは無用の心配だったらしい、はは」


「ああ、それで……」


 《光背》で受けた一太刀目。あれはジグレード本人の申告通り、きっちり峰打ちになっていた。俺にしてみれば《信業》で防御するからいざというとき防具など邪魔でしかないが、それを攻め立てる側からすれば何もなければ(・・・・・・)斬ってしまう(・・・・・・)。殺してしまう。武辺者とて尻ごみぐらいするか。


「それにしても見事な身体強化よ。歴戦の探窟家でもああも早い者はそういまい」


 俺は紅茶を口にして返事を濁す。


 本当のことを言えば、ジグレードの背後を取った高速移動も《信業》によるものだ。多くの戦士や兵士、探窟家が体得する、魔力を体内循環させることで身体能力を強化する、非理論式《奇蹟》とは明確に異なる。俺も征討軍の端くれだった者として体得していないことはないが、非理論式《奇蹟》のみでジグレードを手玉に取れるほどではない。


 《信業》による身体強化は非論理式《奇蹟》と少々趣というか仕様が違う。魔力を通し続けている間のみ有効な非論理式《奇蹟》に対して、《信業》は発動して集中を切らしさえしなければ維持が可能だ。《顕雷》も、ゆっくりと発動すれば誤魔化せるレベルに抑えられる。……どれも、《枯界》脱出の試行錯誤で知ったことだ。


 ジグレードがどういう人間関係を持つ誰なのか、知らない俺は手の内を明かすつもりはない。《光背》を見せたのだって、『俺に手出しをしても通用しないぞ』という示威行為の意味を含んでいた。


「できれば、今度また手合わせをしてくれないか。次は拳だけでなく剣も見てみたい。……使いこまれた、よい剣だ」


 机に立てかけていた俺のロングソードを一瞥して呟く。抜かなかったのは、これを抜けば無傷で場を収める自信がなかったからだ。次はと言われてもな……。


「というか待て。また来る気か?」


「ああ。お主は強い。目指すべき猛者だ」


「冗談じゃない。俺はただの旅人だぜ。強くなりたいなら《冥窟》でも潜ってこいよ」


 俺がそう言って手を振ってみせると、ジグレードは腕組みをして、


「むろん、《冥窟》には潜る。だがアレは武練の場としてはあまり相応しくないのだ。アレは慣れなければならないものであって、予想だにしないものを相手に鎬を削るようなことは今やほとんどない。それでは鍛錬にならんのだ」


「そういうものか……」


 探窟家は《冥窟》の未知を探究する職種だと思っていたが、聞く限りそうでもなさそうだ。どうも、多くの探窟家はルーティーンのように採取を熟し、退治する魔物に慣れていき、日々を過ごしていくらしい。俺がイメージしていたような探窟家は一握りだし、最古の《冥窟》があるディゴールではほとんど無縁となっているということか。


「だからって俺を使うなよ。朝飯食う間くらいは話に付き合ったがな、もう食べ終わったし帰れ。そんで二度と来るな」


「いやそういう訳にはいかんのだ。実はお主には別件で用事があってだな……」


「じゃあそれさっさと済ませて帰れっ。雑談ばっかりして、本題に入れよな」


「うむ……。それがな……」


「何してるのジグねえ


 背後からの声は聞き覚えがある声。


 レッサの声だ。

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