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021話 神誓破談その7

 男の声。バザールの背後、引き連れてきた連中のそのまた更に後ろからだ。玄関ホールにずかずかと上がりこんでいた彼らに、入り口のドアの外から呼ばわった形になる。


 バザールが振り向く。鈍い配下どもも振り向いて、「オウ」だの「何だテメェ」だの凄んでいる。……邪魔だ。


「退けオメェら」


 人波がはけて、声の主が見えると、バザールは怪訝な顔をした。


 青年だ。バザールよりも年下だろうか。ディゴールの街で見かけたとしても注意を払うような容姿はしていない。バザールは顔だけ見れば『《冥窟》に潜るためにやってきて、潜るより先に死んでそう』と思った。


 だが小脇に二人の少女を抱えている。


 片方は確かレッサと言ったか、カリエの周りをウロチョロしていたガキだ。見覚えはあったが商品(・・)にはならなそうだったから放置していた。


 もう片方は見知らぬ少女。仮面を被っているが、レッサやカリエとは違って奇妙な高貴さを感じさせる。欲の皮のつっぱったバザールは、『これならよっぽどいい商品になりそうだ』と素早く目算を立てた。


 青年が少女二人を下ろす。レッサはどうやら半ば近く失神状態にあるようで、仮面の少女が座らせてやって支えている。……何をすればああなるのか、バザールは少しだけ気になった。


 配下の一人、一番青年に近い奴に目配せする。変な青年だが、目障りな存在であることに変わりはない。


「失せな、アンちゃん。痛い目見たく」


 ないだろ? と続くと思っていた。青年に歩み寄りながらの言葉が途切れると同時に、その配下の膝がかくん、と落ちた。歩いていた慣性のままくずおれる。


「は?」


 気絶していた。


 バザールにも、その配下のならず者たちにも、レッサとカリエにも覚知し得ぬ早業。いつの間にか水平に上がっていた青年の腕は、目にも止まらぬ一瞬で正確にあの男の顎を打ったのだ。


「何だテメェ」


「俺はユヴォーシュだ」


「そういうこと言ってんじゃねえんだよ」


 二撃、三撃。ユヴォーシュが一歩一歩前に進み、腕が振るわれたと思しき残像が走るたびバザールの配下が崩れ落ちる。手あたり次第といった感じで数人を打ち倒し、入口に立ち塞がったのを見てバザールの()が切れた。


「何だっテメェ、ざっけんなよテメェ、何の権利があってそうしやがる! ───このガキか? このガキに同情してこんなことしてんのかこのイカレ野郎がァ! なら……おい、神誓に基いて命令だ、『この男がオレに危害を加えやがったら舌噛んで死ね』!」


 仁王立ちのユヴォーシュ、彼の顔が分かりやすく歪んだのを見て、バザールは勝利を確信した。やはり! やはりこの男の目的はこの小娘で、つまりこれで俺に手出しをすることは不可能になったのだ、と。神誓が破られるなんてことは起こり得ない。


従うことない(・・・・・・)


 その声もまた、バザールの初めて聞く声だった。


 レッサを支えている仮面の少女。硬直した事態をあっさりと流すように、暴力と死の気配で強ばる少女カリエの心を解すように、事もなげに、


 神誓を破れと唆した(死ねと言った)


ボクが赦す(・・・・・)

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