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207話 聖都帰郷その3

 書き出しがそれだったので素っ頓狂な声を上げてしまった。俺は咳払いをしてごまかすと、落ち着いて読んでみる。


「なになに。───ユーヴィー、このオースロストってなに?」


「私信を覗き見るな」


 窘めはするものの、まあ、どうせ二人には秘密の内容という訳にもいかないと判断する。どうせ黙読していたら両脇からあれやこれや口を挟まれて集中できないのは分かり切った未来だから、俺は説明しながらに切り替える。


「オースロストは《人界》で一年に一回ある、信庁の大集会だ。神聖騎士たちも聖都に集まって行われる一大行事で、それを無事に執り行うために事前に安定《経》から攻め込んで《魔界》を叩いておくのまで含んでることが多い。例年ならもう終わってる時期なんだが……」


「ああ、それで……。定期的に《人界》から攻め込んでくる軍があるのはそういう仕組みでしたか」


「《魔界そっち》でも認知はされてたんだな」


「で、それがどうしたの?」


「何でも今年のは遅れたらしくてな。もうすぐ開かれる今年のオースロストでカブるから、……墓参りを代わりに頼むって手紙だ」


 手紙を読みながら俺は思い出していた。そうか、もうそんな時期。もう随分と行っていないから忘れていた。───本当に、忘れていた。


「墓参りって、誰のだい?」


「俺の両親と、ニーオの父親。彼女の母親はそれよりもっと前に亡くなってるから───」


「えっ」


「ちょ、ちょっと待った」


「ユヴォーシュ、貴方そんなあっけらかんと───」


 二人が慌てているが、そんな反応をされても正直、困る。何故って、


「もう随分と前だぞ、今更どうこうってこともないさ。というか何だ、家族がいるのにあんな自由奔放にしてると思ってたのか、俺が?」


 信庁の軛を振り払って、敵対しないからとお目こぼしされているであろう状況を利用して生きていくと決断できたのは、俺がもう両親を喪っていたからという因果な理由も多分に含まれている。


 ぶっちゃけ、両親が生きていたら間違いなくそこを狙われて言うこと聞かされていたと思う。幼馴染のニーオが存命だろう? あれを人質に取れる奴がいれば俺が会いたい。


「まあ、それは、確かに……」


「そうじゃなきゃ信庁に喧嘩なんて売れないよねえ」


「えっ、この人、信庁に喧嘩売ってるんですか」


「売ってるよー」


「聞いてません……」


 言っていなかったかもしれない。


 振り返ってみれば、魔王城カカラムから髑髏城グンスタリオまでの旅路の間、俺と神聖騎士たちは敵対するそぶりを見せなかった。彼女からすれば俺と彼らは親密……とまでは行かずとも、協調関係にあるように見えたかもしれない。そしてそれは間違いではなかった───悲しいことに、あの旅の間だけは、という注釈が入るが。


 薄々察していると思うがあの一行を仕切っていたロジェス・ナルミエは戦闘狂の()があって、信庁の意向に従順なだけではないからあまり参考にしない方がいい、基本的に信庁は俺のような異端は処刑する方針だ───その旨を伝えること、しばし。


 ヒウィラのもともと血の気の薄い顔は、すっかり色を失って萎れてしまっていた。


「《人界》、やっぱり危険じゃないですか……」


「それはまあ、済まん」

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