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205話 聖都帰郷その1

 ヒウィラは一日の始めに、大きく伸びをしながら玄関を開ける。玄関すぐのスポットは特殊な処理がしてあるから、一々偽装を考えなくてもすっぴん(・・・・)のまま出られるのだ。


 ポストに近づいていくとその中を探る。これはいくつかある彼女の屋敷での仕事の一つで、今のところ欠かしたことはない日課だ。


 都市付き神聖騎士代理、という肩書は、ユヴォーシュにそれなりの業務を割り振ることとなっていた。そのためそういう仕事のための書類やら書簡やらが、結構頻繁に投函されているのだ。だからヒウィラが手に何か触れたとき、そういう類かと思ったが───取り出してみると違った。


「ニーオリジェラ……」


 差出人の名前を呟く───ヒウィラには見覚えはない。


 《人界》と《魔界》の言語───読み書きする文字にも喋る言葉にも大きな差異はない。《信業遣い》と《顕業者》のように、意味は同じでも呼び方だけ違う、みたいなことは稀だから一から学び直す必要はなく、身構えていたよりもあっさりと馴染めてしまっている。


 究極的に、《人界》と《魔界》───人族と魔族を分かつものは、その神のみ。


 統治機構や種族的差異は根本的な別ではないのだ。それこそ、《人界》に建国することも、《魔界》に信庁のような統一組織を打ち立てることも、力さえあれば実現し得る───それを大魔王マイゼスは証明してみせた。


 そして、おそらく種族の壁というものも心理的障壁と比べれば些細なもののはず。


 半人半魔が存在しないのは、人族と魔族が不倶戴天の大敵だから以外の何物でもない。捕らえた敵に対して、最も野蛮な傭兵であっても人魔の垣根を越えて犯す(・・)という選択肢を持つ者はいない。それは神に逆らう行いで、どんなに性的に倒錯していてもありえない(・・・・・)ことなのだ、欲情するなど。


 それは《魔界》インスラと《魔界》アディケードの間でも同じことで、《人界》では一括りに魔族と呼び習わしていても決定的に違う存在と言っていい。それだけに、体裁だけでも“嫁取り”という形でヒウィラを迎えたマイゼスの異常性が浮き彫りになる。そして、ユヴォーシュもまた。


 彼らのことは未だに理解できているとは言い難い。前者については、もう知るすべもない。それが今更になって惜しいことに、ヒウィラは驚いていた。あの時は必死で、混乱していて、とてもそんなことを考える余地などなかったが───彼のことを理解してみたかったという後悔は確かにある。


 せめて、後者───ユヴォーシュにまで同じような後悔を抱くことはないように。ヒウィラは彼のことをもっとよく知りたい。


 まずは、だから───


「誰かしら、これ。……筆圧からして、女性の筆跡のようだけれど」


 ヒウィラは、自分の眉根に皺が寄っているのに気づいた。彼には美人の知り合いが多すぎる───まったく。

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