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200話 人界生活その5

「ここだ」


「……鍛冶屋?」


 ヒウィラをまず連れて来たのはそう、鍛冶屋。近づく前からカンカンと力強い金属を打つ音が響いていたから薄々察してはいただろうが、ヒウィラは不思議そうだ。


「なぜ鍛冶屋に?」


「ヒウィラさ、剣けっこうデキるだろ」


「はあ、まあ……。あの時(・・・)のことを言っているなら、テンパって我武者羅だったから出来た無茶であって、あれを基準に考えられるのは……」


 そうは言うが、あの時───大魔王マイゼスとの死闘の最中、ヒウィラがロングソードで彼の腕を斬り飛ばしたのを俺ははっきりと見ている。彼女の太刀筋は綺麗なもので、身に沁みついた鍛錬を窺わせた。事実、『ある程度は修めています』とも言っていた。


「身を守るのにも、毎回借り物の剣ってわけにはいかないだろ。一本用立ててやるから持っとけよ。ついでに鍛錬に付き合ってくれ」


「嫌です」


「さ、行こう。鍛錬用に木剣もないかな、鍛冶屋じゃないかな。何はともあれまずは真剣だけど」


「嫌です! 聞きなさい放しなさい! ちょっと!」


 どんだけ嫌がってもこればっかりは我慢してもらうしかない。


 《信業遣い》だと、ロジェスの部下以外の───《魔界》インスラに同行しなかった───神聖騎士たちに知られれば絶対にややこしいことになる。対《信業遣い》以外で、《信業》を大っぴらに使わず、自衛する手段───そうなればやはり、剣。


「嫌ですってば、貴方みたいな練達の剣士と訓練なんてしたら、それはもうこっぴどく打ちのめされるに決まっています! どうせ毎朝の剣舞以外にも鍛錬の相手が欲しいとか思ってるんでしょう、絶対にお断りですから!」


「そんなこと言うなよ、少しくらいはいいだろ。というか朝のトレーニング、知ってたのか。てっきり寝てるのかと」


「ッ、あんなに風を切る音がしていれば目も覚めます! ああもう、いいから一旦止まって───」


「───ユヴォーシュ? 何をしているの、こんなところで」


「うっ、ジニア」


 俺が握っていた手首越しに、ヒウィラがびくりと反応する。俺は俺でヒウィラを引っ張っている現場を抑えられて気まずい。俺たち二人が黙れば、必然、ジニアが会話のイニシアチブをとることとなった。


「ここ、私の店の前なんですけど。営業妨害なんですけど。……というか、誰、そっちの彼女」


「あ、いやぁ、ははは……」


 どう説明すればいいか困って苦笑で誤魔化すと、ジニアが途端に顔色を変えて、


「ちょっと、もしかして無理矢理手籠めに……!?」


「するか!」


「そうよね、知ってる。貴方がそういうことをしないってことくらい。それはそれとして、痴話喧嘩なら邪魔だから他所でやって」


「ああいや、そうじゃない。店に用があって来たんだ」


 俺の弁明に、ジニアの表情が一瞬明るくなる。すぐに眉をひそめ直したが、人族よりも長い耳がひょこひょこと動いているから内心が分かりやすい。……ヒウィラもそうなんだろうか。


 当の本人(ヒウィラ)はジグレードと遭遇したときと同じように警戒……していない。どちらかというとじっとりとした視線を俺に投げかけてくる。


「な、なんだよ」


「……貴方、いったい何人こういう知り合いいるの」


 何だその咎めるみたいな言い方。俺は責められるようなことはしてないぞ、と反論する間もなく、


「ヒウィラです。ユヴォーシュの遠縁で、彼を頼って来たの。よろしくね」


「……ジニア・メーコピィ、鍛冶師よ。ウチに用があるのは……貴方よね」


 ヒウィラは不承不承といった雰囲気で、しかししっかりと頷いた。

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