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198話 人界生活その3

「買い物に行くぞ」


「行ってきてください。私は待っています」


「そういう訳にいくか。誰のための買い物だと思ってやがる」


「……話しの流れからして、私のようですが」


「不思議そうな顔してんじゃねえよ。お前のものを買いに行くんだからお前が来ないでどうする」


「何を買うのですか?」


「あれやこれや、お前さんが《人界》で生きてくために必要なもの、あった方がいいもの、雑貨、一通りさ。ついでに屋敷の台所も使ってみたいから、食材も含めてな」


「待っています」


「誰かを見送るなら『行ってらっしゃい』くらい言え。いやダメだ、言ったら待ってていいわけじゃない。来い」


 屋敷の結界施術施術が始まって数日目のこと。カストラスと、彼の助手の立ち位置に収まったバスティは二人で朝から何やら準備に忙しい。俺は毎朝の剣の修練を終えると、二階の居間でくつろいでいるヒウィラを連れて街に出ることにした。


 ここは実験的に施された偽装が有効だから、ヒウィラは魔族の姿のままだ。俺は彼女に向かって手を突き出す。指には小さなピアスが摘ままれている。


「ほら、これ付けて。折角カストラスが作ってくれた《遺物》なんだから、腐らせてたらダメだろ」


「つけて下さい」


「……付けたら行くぞ」


 ヒウィラは返事もせず耳を突き出す。座ったまま、それ以上は動かないと言わんばかりだ。ここで自分でつけろと言うのは簡単だが、それでこれ以上ヘソを曲げて部屋に引きこもられても困る。俺は仕方なく跪くと、彼女の耳にピアスをつけてやる。


「……ん」


 針を通した瞬間、小さな声を漏らす彼女。留め具がパチリと小さな音を立てると、彼女の姿が変わっていく。肌には血の気が通い、黒く染まっていた白目は脱色される。尖った耳輪も丸く縮んでいく。耳については触ろうと思えば触れるが、体温も幻覚で上がっているため握手で露見する心配は無用だ。……ちなみに、彼女に『毛皮を着込んで厚着している感覚です。あまり長いことつけるのは避けたいですね』と評されたカストラスは、その不快感の払拭のためだけにまる一日を費やした。本来ならもう屋敷の結界も施工完了しているはずなのにまだああして(・・・・)施工の真っ最中なのは、他にも似たり寄ったりの改善で寄り道しまくっているからだ。他人の金だと思って好き放題。


 そのうちどこかでストップはかけないといけないが、今はこっちのぐうたら娘が優先だ。


「ほら、行くぞ」


「起こしなさい」


「アホ抜かせ」


 買い物に出かけるだけだというのにこの体たらく。先が思いやられるとか思っていたら、屋敷を出て早々に躓くこととなった。


「……おい、ヒウィラ。歩きにくいんだが」


「それが何ですか」


「いや、歩きにくいんだって。もう少し離れて……というか、腕を放してくれ」


「断ります」


 右腕をがっちりホールドしながらきっぱり言うな。いやまあ、レディを力づくで振りほどくつもりはないし、隠蔽はすれども魔族が《人界》の街を歩くのはそりゃあ恐ろしかろうが、だからってこれはやり過ぎじゃないか? それこそ何かあった時に咄嗟に動けないぞ、これ。


 そして周囲の目がすごい。俺は《信業遣い》としてまあそれなりに名前が売れたところに、更に都市付き神聖騎士代行の役割を押し付けられてしまったから割と広く顔を知られている。そこに誰も素性を知らぬ美人がぴったりとくっついていれば、衆目を集めるのは必然。


 ……魔族とバレないようにするの、メチャクチャ気を遣うなコレ……。


「ゆ、ユヴォーシュ……その、彼女は誰だ……?」


「え、あ、久しぶり、ジグレード」

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