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196話 人界生活その1

 屋敷を買った。


 金にものを言わせて、ディゴール都市政庁から遠くも近くもない中古物件を一括で。


 今までのように都市政庁に一室を用意してもらってそこでというわけにはいかない。何せこちらには魔族がいるのだ。ちょっと目撃されるだけで一大事、万一がないように気を張っていたら早晩倒れる。ヒウィラ自身、常に欠かさず人族に変装し続けなければならない生活にさっそくウンザリしている。《魔界》に戻りたいとか言い出したらあの会話は何だったのかという話になるから、必要な出費とはいえ。


 ざっくりと金が半分以下になった。


「《真龍》退治の報奨金だけじゃ食っていけなくなりそうだ……。つっても、仕事なぁ」


 俺のボヤきを、バスティは完全に他人事として聞き流して、ヒウィラはいまひとつ理解していない様子だった。


 さておき、屋敷だ。


 二階プラス屋根裏、庭つきのその建物を見て、お姫様暮らしの長かったヒウィラはこう宣った。


「これが私のですか。小さいですね」


「俺たち全員の、だ。そしてその上で大きい方だ」


「ええっ」


「つくづくボクより上から目線だな……」


 入居してそれで終わりではない。荷物運びは三人とも身軽な身の上なのですぐに済み、家具の設置も《信業遣い》二人に超高性能義体一人だから一瞬で片付いた。あとは、


「偽装結界の敷設、よろしく頼むぜカストラス───金に糸目は(・・・・・)つけないから(・・・・・・)


「全く、魔術師《私ら》の使い方が上手くなったねユヴォーシュ」


 嘆息のカストラス。彼がまだディゴールに滞在していてくれてよかったとつくづく思う。何でも、俺が《魔界》を行ったり来たりしている間に、バスティが彼を引き込んで魔術の手ほどきをさせていたらしい。貯金ががっくり目減りしていた理由も分かろうというものだ。


「それで、要件は?」


 俺とカストラスとヒウィラ、三人で額を突き合わせるのは屋敷一階の応接間。バスティは魔術的に興味はあるがヒウィラについて手伝う気はないとかで遠巻きに眺めている。


「何はともあれヒウィラの正体を隠すこと、侵入者の警戒。この二点だな」


 そういえば、カストラスはばっちり異端だった。魔族に対しての姿勢はフラットだから、こっちとしても気兼ねなく話せる。ヒウィラの正体についても説明済みで、全部聞いた彼は「君はどこまでも馬鹿だなあ」と笑っていた。ほっとけ。


「ふむ。安直なやり方だと、敷地内に踏み込んだ魔族の外見を全部人族に置き換えるくらいのものだが」


「それは好ましくありません。私の自己認識は《悪精》ですから、外見をそっくり置換されてしまうと私の脳が錯誤してしまいます。プライベートな空間でくらい化粧を落としたいとは思いませんか?」


「化粧しねえからなあ……」


「ボクも化粧要らずだし」


「…………」


「分かんないなりに分かった。カストラス、いい感じに頼む」


「頼み方ってものがあるだろうに。君はいつもいつも大雑把すぎるんだよ」


「同感」「です」


「……うるさいな」


 顔を合わせてからこっち、言い争いのない日はないくらいなのに、どうしてこういう時ばっかり息がぴったり合うのか。満場一致で雑と評され、俺は憮然とする他なかった。

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