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191話 大魔王殺その4

 乱入してきた《光背》のユヴォーシュと、大魔王マイゼスの激突を中心と考えて。


 第三姫ヒウィラがそこに最も近く、次いで動く様子を見せない聖究騎士ロジェスが在って。


 ロジェスを除く神聖騎士たちは、指揮官たる彼が動かないから独自に判断して行動するしかなかった。指揮系統の混乱を招くのは百も承知だが、だからといってこの土壇場でも瞑想を続けるロジェスに殉じて無抵抗で大魔王麾下の魔族に殺されてやる道理はないだろう。


「というかロジェスさんは何してるんですかね、ホント……!」


「知らないよあの人の考えることなんて!」


 愚痴を漏らしながらも、カーウィン・パルムグリデは押し寄せる軍勢を斬り払う。聖究騎士には至らずとも、彼らはロジェス・ナルミエが選び連れてきた精鋭なのは疑いようがない事実だ。その彼らでさえ、あの渦中(・・)には飛び込みたくはない。


 《真龍》の尾のごとき奔流が空から幾本も伸びており、それらが地面をのたうてば地震さながらに足元が波打つ。二人の武器がカチ合うとその衝撃で地表がめくり上がり吹き飛んでいく。


 ───まさしく、この世の果てのごとき光景。


「にしても、まさか───魔族と肩を並べて戦う日が来ようとは!」


「───」


 返事をするのも厭うたか、タンタヴィーは口を開くだけで声には出さなかった。が、内心では彼も同じ気分同じ気持ちというのは分かる。ありありと顔にそう書いてある、今すぐまとめて(・・・・・・・)殺してしまいたい(・・・・・・・・)と。


 当然だ。《魔界》インスラの魔族は不倶戴天の敵だが、人族と《魔界》アディケードの魔族も同じように不倶戴天の敵なのだ。敵の敵、あっさりと味方になることはない。利害関係と権力者の厳命、そして生きるか死ぬかの瀬戸際。これだけの事情が揃って、それでも隙を見て背後から斬り捨ててしまいたいのが本音だ。


 お互いそれは重々理解しているから、混然となって戦線を維持するようなことはできない。肩を並べると言ってもごく限られた状況のみで、両翼をそれぞれ担う程度。


「タンタヴィー。それにしても状況は最悪だ───あの男(ユヴォーシュとやら)が大魔王を殺せなければ、我々は……」


「そうなったときのために、どうにか囲いを脱する方法を考えろ! 何としても姫だけは───」


「ムクジュ、ちょっと、それ(・・)を貸しなさい」


 押し寄せる大魔王軍の兵たちを蹴散らしながらの怒号混じりの会話。そこに、今まさに話題に上がっていた当人───第三姫ヒウィラが口を差し挟む。


「え、あ───ヒウィラ様!? は、仰せの通りに……ええっ、これ(・・)をですか!?」


 あちらで大魔王との戦いに専念しているかと思っていたタンタヴィーとムクジュは狼狽するが、彼らは彼女ヒウィラが影武者の姫であることを知らないし、知ったとしても命令系統的に逆らうわけにもいかないという点で詰んでいた。結果、


「そう言っているでしょう、いいから、早く!」


 事情の説明もなしに、無体にもそれ(・・)を持っていかれることとなる。




 彼らがそんな話をしているのを、好機と見る者たちがいた。


 アルサンディアとアリアシキラ。《魔界》インスラの魔族の中で、数少ない《信業遣い》である。


 《魔界》インスラの《信業遣い》の数は《人界》や《魔界》アディケードと比してもそう大きな隔たりがあったわけではない。それが激減したのは、大魔王マイゼスが各国を侵攻した際にかなりの数が主君を守るべく徹底抗戦し、そして悉く虐殺されたからだ。


 ではなぜ、二人はそう(・・)ならなかったのか。


「───アルサンディア! アリアシキラッ!」


「……あら」「アコランゼア」「やはり貴方が」「手引きしていたの」


 互い違いに言葉を紡いで、それが意味をなす奇妙な光景。そうそう、戦闘中はより短い文節で区切って入れ代わり立ち代わり喋るのは常だった。二人は《人界》で言うところの讃頌式《奇蹟》によって意識と《信業》を共有しており、高揚すると合一化は進行する。そうやってより高次の行使を可能としていると彼はよく知っている。


 それくらいのことを知り合う間柄だった。あの日、白亜の魔王城グンスタリオが陥落するまでは。


「そうだよ、あいつなら───ユヴォーシュならリーオザス陛下の仇を取ってくれる、はずだ。だからもう……二人も、元に戻って、いいんだ!」


 感情を滲ませながら近づくアコランゼア。彼の目前で衝撃が炸裂する。流れ弾や、万一のときのために彼が展開していた不可視の障壁。それが攻撃を弾いた反動だ。


「───なんでだよ、アルサンディア」


「何でも何も」「私たちは陛下に忠誠を誓ったのです」「マイゼス陛下に」


「それは表向きで、その日が来るまで潜伏するって話だったろッ! その日は来たんだ、今こそ立ち上がる時なんだよ!」


「ああ───」「可哀そうに」「亡き王に囚われて」「大事なことを見失って」


「大事なことを見失ってンのは二人のほうだッ! あの日約束したろ、何で───」


「もういい」「陛下に差からうなら」「たとえ貴方であろうと」「大逆罪です」


 彼女らも決して無感情ではない───アコランゼアと同じように動揺し、忌避感のあまり噛んだ唇から血が流れ落ちてすらいる。だがそれが何だというのか。


 あの日、魔王リーオザス直々に、反逆の徒として潜伏せよと告げられたアコランゼアはその言葉を拒絶した。


 小神のごとくに崇めているリーオザス。彼を、命令に逆らってでも守らねばならないと考えたからだ。だがリーオザスはそれでは犬死になると判断し、彼に刻まれた神のしるし(・・・)を削ることでわずかながらの自由を与えた。その上で、彼に《魔界》インスラを頼むと託したのだ。


 たったそれだけの違い。


 しるし(・・・)が欠けていたから、大魔王マイゼスに屈しなかったアコランゼアと、


 しるし(・・・)に瑕疵がないから、大魔王マイゼスを信ずるを自明とした彼女ら。


 それだけの違いで、幼い頃から睦まじく育てられた同族の彼と彼女らは、


「ううアアアアアアアア───ッッ!!」


「「オオオオアアアアアッッ!!」」


 こうして殺し合うのだ。

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