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183話 供儀婚儀その6

「───ッおォ!」


 裂帛の気合とともに放たれた一閃。武器で受けていれば両断してやった自信のある一撃を、大魔王マイゼス=インスラはしかしながら《澱の天道》の黒奔流を盾にするから届かない。


 当然奔流は寸断されるが、もとから無形。すぐにマイゼスの操作通りの形を取り戻す───


「それは何だ」


「それとは?」


「とぼけるなよ。その《遺物》。それに姫君を呑ませようとしたな? 他にも随分と気配が重なっているし、そもそも形がなかろうが(・・・・・・・)俺が斬ったものが(・・・・・・・・)繋がるはずがない(・・・・・・・・)。斬ったものを斬れてないように見せかけてるだけだろうが、にしては圧が全然減らん。どういう仕組みだ?」


「ふ───」


 くつくつと大魔王が笑い始める。油断ならば斬りかかるロジェスがそれを黙って見ているということは、彼が臨戦態勢を解いていない逆説的な証拠だ。


「これは《魔界》インスラそのもの、だ。おれが魔王まで至ったのは俺の欠落ゆえだが、おれが大魔王まで至ったのはこれがあってこそ」


「よく分からんな」


「教えてやろう、その身を以て───!」


 剣一本のロジェスに、剣と斧と奔流の怒涛が畳みかけていく。それを凌ぎながら、ロジェスは沸騰する感情とはよそに、冷たくその実力を分析する。


 ───これは、強いな。


 ───俺よりも(・・・・)


 その力の源は何だろう? 剣技・斧技・奔流を操る魔術の腕前、三種を同時に操る真似を許さない戦法が、極めて高水準で纏まっているところか? 《澱の天道》の膨大な出力か? それとも、もっと別の理由だろうか。


 ───違うな。


 これはもっと根底の話。彼の寸前の言葉を思い出せ。


 《天道》があったからこそ大魔王にまで至れた。だが、最初に魔王に(・・・・・・)至った理由は何だ(・・・・・・・・)


「っ、くく……!」


 頬を鋭い風が走る。超質量の奔流を、一刀揮って断絶をこしらえることで何とか防ぐ。とてもそんな余裕がある状況ではない、一瞬でも手を抜けば即死。にも関わらず、ロジェスは、


「くくッくくく……」


 笑っていた。楽しんでいた。


 満喫している。この刹那、この瀬戸際、命を奪う顎がぽっかりと目前に開いているような戦の渦中! それを求めて《魔界》アディケードへ赴き、《魔界》インスラへ辿り着き、今ここに居る。


 俺を研ぎ澄ますのはこの瞬間の火花。もっと強く、もっと鋭く、成るためにはやはり戦い(これ)しかない。あとは余計で、邪魔なくらいだ。ロジェスの思考からすっぽりと、失踪したユヴォーシュも心折れたヒウィラも洗い流されていく。


 大魔王、これほどのものか。ならばよし、相手にとって不足なし!


 戦の化身の如き凄絶な笑みを浮かべて、ロジェス・ナルミエが斬りかかる。

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