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160話 闇黒彷徨その1

 安定《経》の中、偽りの時間の間に考えたのは、『出たらすぐに《光背》を展開しないと』ということだった。


 どこの世界でも、《経》というものは不意に他世界の存在が飛び出してくるか分からない危険物だ。その土地を治めている権力者が放置することはありえないから、出た直後に魔王軍に囲まれるのは必定。


 俺の役目は、ヒウィラが《魔界》アディケードから嫁入りに来た姫だと証明できるまでの時間稼ぎだ。


 ───ほんのちょっとだけ、止めようかなとも考えた。


 俺が手を抜いて、とても時間稼ぎなんかできないくらいの猛攻に晒されれば、ひとまず《人界》に戻ろうという流れに持っていけるかもしれない。そう考えたんだ。


 ただ、それだと万一が恐ろしい。もしもロジェス級の魔族がいて、初手で全力を叩き込まれれば手加減した《光背》では破られてしまうだろう。そうなればヒウィラの本心を確かめる機会を永遠に失ってしまうから、それじゃダメだと思い直した。


 時間経過は錯覚とはいえ、ある程度の目安というか、そろそろかなというのは何となくわかる。だから俺は、その瞬間が近づくのを感じると、即応できるように意識する。


 時空のねじれ(・・・)と表現される《経》の中を通り抜けて、俺は《魔界》インスラに出た───とほぼ同時で《光背》を使う。範囲おさえめで、その分出力、抵抗力とも呼べる部分に注力する。ロジェスの一刀も受け止められるくらい、という強度。……彼ほどの力量の《信業遣い》がそうホイホイ出て来られては困るが。


 そこに衝撃が襲い来る。低空から《人界》側の《経》に突っ込んだ鳳が《魔界》側の《経》を飛び出して、そのまま着地したのだ。後ろに引っ張られていた籠もバウンドする。ひどく荒っぽい越界になってしまったが、中のメンツは無事だろうか。タンコブくらいなら仕方ないと諦めて欲しい。そこまで《光背》でカバーできているとは思えない。


 やがて地面を削って減速し、周囲を伺う余裕ができる。


「な───」


「……これは、なかなか意外だな」


 俺もロジェスも、他の神聖騎士たちも揃って驚愕に硬直する。……硬直しても、その隙を衝くような存在は皆無なのだ。


 《魔界》インスラの安定《経》周辺一帯は、完全に野ざらしになって放棄されていた。


 俺の《光背》を含め、警戒していたのはすっぽかされたかたちになる。インスラ魔族との越界直後の衝突は回避されたが、こうなると

今度はどこへ行けば接触コンタクトできるのか、という悩みが生まれるから困ったものだ。


「まさか、誰もいないなんてことがあるとはな……。《人界》との《経》なんて、最重要防衛地点だろう」


「少なくとも、《人界こちら》側では、そうだ」


 呟くロジェスの背後で鳳が消滅していく。籠の中から出て来たらしいタンタヴィーが、


「ここは……。これが《魔界》インスラだというのか、これが……」


「大魔王が《魔界》インスラを統一したんだろ。なら、どこかにいるそいつの、配下を見つけてコンタクトをとるしかない。結局やることは変わってないんだ。ただ探す工程が増えただけ」


 当ては、ないけれど。

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