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159話 閑話置去その1

 ───前線都市ディゴール。


 都市政庁が用意した、ユヴォーシュ・ウクルメンシルと彼女(・・・)の部屋。


「さ、話してくれたまえっ」


「───いや、それ以前にこちらが聞きたい。きみは、いったい……?」


 アレヤ・フィーパシェック征討軍部隊長は困惑していた。


 彼女の元部下にして現・ディゴール都市付き神聖騎士代行、ユヴォーシュには旅の同行者がいる、と聞き及んではいた。だから、説明できる範囲で何が起きているか話す義務があるだろうと考えてここへ来た。同行者は実際に存在し、だから彼女は同行者に説明をすればいいだけのはずだ。


 ───その同行者が、アレヤの全く見知らぬ、仮面をつけた尊大な褐色肌の少女でなければ。


 少女は我が物顔でアレヤを迎え入れて、勝手知ったる自室とばかりに茶を用意している。彼女がユヴォーシュの何なのか、青年からは聞いていないから信用していいものか迷わしいのだ。


「ボクかい? ボクはバスティ。───ははあ、ユーヴィーから聞いていないんだね」


「名前もそうだが、知りたいのは関係性だよ。きみとゆ、ユヴォーシュはどういう関係なのか」


「ボクとユーヴィーは……そうだね。旅の同行者であり、秘密の共有者であり、一種の共犯者であり……。まあ、一言で言えば」


 まだ幼いとすらいえる彼女は、らしからぬシニカルな笑みを浮かべる。


「───ボクとユーヴィーは、二人でひとつなのさ」


「全く分からん」


 ちょっとマセた少女が、どうにかユヴォーシュの部屋に潜りこんだのが相場だろうと考える。もしかしたらユヴォーシュが保護した少女とかかもしれないが、それで『二人でひとつ』は言い過ぎだ。


 アレヤはどっと疲れて、こめかみを指で揉み解す。


「やれやれ───あのバカは、勝手ばかりやらかして」


「そう、ユーヴィー。彼はどうしたんだい? キミと一緒に《魔界》へ向かったと聞いているが」


 そんなことまで話していたのかと眩暈がしてくる。いちおう、機密に値する情報のはずなんだが。


 ……この程度なら、いいか。仮にも同行しているっぽいのは言葉の端々から察せるし。


「彼は別行動だ。《人界こちら》には帰ってきたはずだが、私たちは後から戻ったからな。何のためかは……口外できない。緘口令が布かれている」


 バスティと名乗った少女は駄々をこねて無理にでも聞き出そうとしてくるか、と身構えていたのだが、存外おとなしい。彼女は鷹揚に頷くと、


「どうせ見つけたんだろうよ、やりたいことを。いいさ、自由にやってるみたいだから」


「心配していないのか?」


「ぜーんぜん。彼は強いし、《光背》の力は身を守ることにこそ長けている。彼は死なないよ、大丈夫。だからね、ボクが文句を言いたいのはただただそんな面白い状況(・・・・・・・・)でボクを置いていった(・・・・・・・・・・)ってことだけなんだ」


 キミだってそうだろう? そう目で問われれば、方向性は違えど確かにそういう憤りは彼女アレヤの中にもあった。はるばる聖都イムマリヤから呼びつけておいて、魔王を討つというから覚悟してきたのに、もっと興味を惹かれる案が出ればあっさりとそれに乗っかって。《魔界》アディケードに攻め入るために呼ばれた私たちは何だったのか、勝手に帰っておいてと言わんばかりの置き去りに腹が立たない方が嘘だと言える。


 ───それでも、彼女にできることは殆どない。《信業遣い》たちがそう(・・)決め、そう(・・)動き出せば、《信業》なき民など意思の力で引き起こされた圧倒的な波に翻弄されるまでだ。ユヴォーシュとロジェスに腹を立てても、ニーオリジェラに憧れても、結局のところ、それが何かを引き起こすだろうか? そんなことはないのだと、人々は諦観している。


「キミはそれでいいのかい?」


「……何の話だ。いいも悪いもない、私は軍人だ。命令に従うまで」


 アレヤの四角四面な返答に、バスティはにまり笑う。それは餌を前に涎を垂らす、餓えた犬にも似た笑いだった。

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