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158話 最短経路その10

 糸が切れた操り人形のように墜落していく二人のメール=ブラウ。


 それを一切慮ることなく、都市と鳳を結んでいた鎖を寸断してロジェスが帰還する。


「出せグオノージェン! このまま、《経》に突っ込むッ!」


「了解ですロジェスさん!」


 鳳、加速。俺は振り落とされないようしがみつく。


「このままって───鳳乗った(この)ままかッ!?」


「そう言ってんだろ! メール=ブラウの野郎がまだ諦めてない可能性もある、降りてる余裕はないッ!」


「マジかよ───ヒウィラ! そういう話らしいから、また気絶してもいいように横んなっとけ!」


「えっ、あ、はい。お気遣いどうも───」


 彼女の言葉の途中で、籠の扉が閉められる。配下の誰かが閉めたんだろう。まあ、これから急降下するのに開きっぱなしは危ないからな。箱の中でシェイクされるにしても、開いた扉から放り出されるよりはよっぽどマシだろう。


 それより問題は俺たちだ───と、思った瞬間。


 がくりと鳳の軌道が変わる。一定の高度を維持しての飛行だったのが、見る見る地表が近づいてくる。ぶつかる───と身構えたところで鳳は身を翻す。すれすれともいえる高度と、雲にも触れられそうだった高さを消費しての加速で、遠くに見えていた《経》の黒球へと───


「《光背》ッッ! 開け!!」


「ッッ──────」


 ロジェスの咆哮で反射的に光を放つ。敵性体の干渉を防ぐそれは飛翔する鳳に後れを取ることなく全体を包み込み、安定《経》に飛び込むまでの安全を保障した。


 《光背》は俺の知覚にも等しい。展開している間、例えば光に触れる刃が敵のものなのか、それとも自分や味方のものなのか、害はあるのか、それともないのか、判断するためには触れているものが何かを知る必要があるから。


 だから、俺は安定《経》を守る征討軍兵士たちの恐れを感じ取った。


 《信業》、超人たちの超常の業。かつて俺もそう認識していて、自分がその力に目覚めてからはすっかり慣れてしまったが当たり前のもの(そう)じゃない。これはとんでもなくおっかないもので、俺たちはそれを自由に操りこの《人界》を無茶苦茶にしてしまうのではないかと彼らは恐れているんだ。


 ……彼らが弓を槍を剣を向けなかった理由は分からない。恐怖に竦んで動けなかったからか、上官の命令がないという職務上のものか、それとも聖究騎士ロジェスの顔を認めて攻撃対象ではないと考えたのか。


 俺には分からない。《光背》は敵対的かどうかの判断を俺の主観頼りで決定し、敵対的なら防ぐ《信業》だ。人の心を照らす力じゃない。


 そして、今はそういう《人界》の機微を気にかけている余裕がない。今は魔王アムラと協力して《魔界》インスラの大魔王のもとへ姫君を嫁がせる任務の真っ最中だし、ロジェスはその機に乗じて大魔王を討伐しようとしているし、俺はヒウィラの本心を確かめるまでは離れるつもりはない。あれこれゴチャゴチャと、大きなものが動き過ぎている。


 ……だから、寄り道して寄り添ってはやれない。


 申し訳なく思いながらも、俺たちはデングラムの安定《経》へと飛び込んでいく。


 向かうは《魔界》インスラ、大魔王の治めるという統一国家。

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