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156話 最短経路その8

 鎖と魔剣が衝突する。


 絡みつき敵対者の行動を封じるように設定された《信業》が、その鎖には仕込まれている。それを打ち合うだけでことごとく破壊する、黒い刃のアルルイヤ。《信業》喰らいの黒い《顕雷》が、鳳の背に影を作る。


 ───参ったな。


 メール=ブラウは内心でほぞを噛んでいた。敵対者、《光背》のユヴォーシュは強力に過ぎる(・・・・・・)。まさかここまでとは思っていなかったから、準備が全然不足してしまっている。


 防御の《光背》、攻撃の魔剣アルルイヤ。隙がない───しかも高レベルに纏まっている。


 《鎖》のメール=ブラウは高位《信業遣い》、《人界》の聖究騎士である。並の防御用《信業》や、並の《遺物》───魔剣ならば真っ向勝負でねじ伏せられるだけの格というものがある。例えば、そこらへんの冒険者にアルルイヤを握らせても、斬れなければ何の意味もない、というように。


 ユヴォーシュは違う。メール=ブラウの動きについてきて、反応し、あまつさえ的確かつ実に嫌な期を見逃さずに斬り込んでくる。


 差し向けた刺客じぶんじしんを《信業》で維持している以上、あの魔剣に貫かれればこの(・・)メール=ブラウは機能を停止することだろう。事ここに及んでは、アレを魔剣───《遺物》と考えるのは止そう、とメール=ブラウは判断していた。


 アレは《信業》の刃と同質だ。それこそ、もう一体の刺客じぶんじしんが斬り結んでいるロジェスの《割断》に近しいシロモノ。


 そちらとて、切断と破壊は防げていないのだ。破壊されたまま、それを回避する操作経路を鎖で用意して無理に動かしているだけで、肉体機能自体は着々と損なわれ続けている。こっちの刺客で強襲したいのに───


「ええい邪魔だ、《光背》の───!」


「こっちの台詞だ、メール=ブラウ───!」


 なるほどな。これじゃ《絶滅》のガンゴランゼでは相手にならないわけだ。ともすれば一対一でメール=ブラウ本人(・・)とやり合ってもいい勝負をしかねない。それ以上であるとは、死んでも言いたくはないが。


 もはや、彼は内心で諦めていた。勝負は勝つか負けるかではなく、どこまで相手に傷痕を遺せるかの段階にきている。


 ───ロジェスがなぜ《魔界》アディケードへ渡ったのか、そこまではメール=ブラウも情報を掴めている。問題は、魔王を討ちに行ったはずの同僚ロジェスが無傷で帰ってきたと思ったら、グオノージェンの造形《信業》を酷使して一直線にどこかへ向かった理由が不明な点だ。方角からおそらくデングラムの安定《経》が目的地のはずだが、つまりそれは《魔界》インスラへ向かっているということ。


 意味が分からない! 何がしたいんだ!


 前線都市トトママガンへ、《転移紋》を使って跳べなかった理由。それが、おそらくは───


「付き合ってられっかッ、テメェなんぞに!」


 メール=ブラウは鎖を命綱に鳳から飛び降りると、その肢が掴んでいる籠の上部へと着地した。この中に、理由がある(・・・・・)


 焦るユヴォーシュの顔がその証左だ。《光背》を展開しようにも、もう遅い。


 鎖が伸び、籠に絡まる。中身が何かは知らないが、奪ってしまえばこちらのもの。むしろグオノージェン程度の《信業》、壊さないように手加減する方が気を遣う。さあて、これを使って交渉を───




 直後、鎖がはじけ飛ぶ。


「な───!?」


「あッ───」


 メール=ブラウと、ユヴォーシュの驚く声はある意味で同じ理由。籠が開いた(・・・・・)ことにある。メール=ブラウは中身が出てくるようなもの(・・)だと知らなかった驚愕で、ユヴォーシュは事前に出てこないように(・・・・・・・・)と言い含められていたのに、という驚愕。


 ───こちらから開ける。《人界》で出ればややこしいことになるから、絶対に出るな。


 ───分かりました。けれど、その代わり……。


「守っていただけないようなので、自衛させていただきます。仕方ないですよね?」


 ヒウィラが放った夜色の棘が、メール=ブラウの《鎖》を打ち破ったのだ。


「魔族、だとォ───!?」


「ヒウィラ、きみは……」


 身を乗り出した彼女は、もう一掃射(なぎ)する。超高速の棘を避けるには、メール=ブラウは籠から飛び降りるしかない。それほどの密度と速度で襲い掛かる致命の───《信業》。


 鎖で受ける。棘と相殺して無防備になったメール=ブラウを彼は見逃さず、追って飛び降り、


 魔剣アルルイヤを突き立てた。

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