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152話 最短経路その4

 鳳の維持と操作はすべてグオノージェンの負荷となるから、永遠に飛び続けることはできない。


 早朝に出発してもう昼だろうか。太陽が天球の一番高いところまで昇ったあたりで、俺たちは適当な草地に着陸する。


 鳳は器用に籠を下ろし、少し離れた場所に降りる。身構えていた衝撃はなかった。


 澄んだ高音とともに、鳳と籠───グオノージェンの創造物が細片に砕ける。溶けたわけでもあるまいに、あれだけの体積があった物体は塵のように粉々になって何も残さない。


「グオノージェン、あともう一っ飛びだ。最速でどれくらいかかる?」


「そう、ですね……。鐘一回分って、ところです」


「分かった。全力で休め。───他の者は交代で警戒をしけ。ディゴールを飛び立って、方角から目的地が割れてると見ていい。ここで来る可能性も十分にある。怠るな!」


「「はっ!」」


 一糸乱れぬ敬礼と腹からの声を背に受けながら、俺は籠入りだった魔族たちに話しかける。


「どうだ、そっちは。お姫様はもう起きたか?」


 質問の体裁をとってはいるが、ヒウィラが意識を取り戻しているのは見て分かっていた。彼女は気絶していたなどとは到底思えない完璧な笑顔で、


「ご心配いただきありがとうございます、ユヴォーシュ様。私なら大丈夫、それより、もう着いたのでしょうか?」


「まだ途中だけど、運んでる《信業遣い》が疲弊して休憩中。周辺は神聖騎士が見張ってるから、空気でも吸っておくといい」


「そうさせていただきます。はあ、私も背に乗せてもらえれば良かったのに」


「ダメですよ姫様。《人界》など危険だ、滞在は短いに越したことはないのです。いくら姫様でも……」


 窘めたのはヒウィラと同じ《悪精》の男性、精鋭の一人のようだ。軍人らしく警戒を怠らないというだけでなく、彼自身の感情が滲み出ている。


 恐れ、嫌悪感、違和感。


 《人界》というこの場そのものと、そこに根ざして生きる人族への、拭い難い負の感情。


 分かるよ、とは言えない。それは神のしるし(・・・)を持つものの感情で、異端の俺には抱けない心情だ。異なる世界、異なる大神を信じる者同士では本質的なところで、根源的に分かり合うことはできないのだと。


 ───人族には、大神によって遣わされた小神九柱の何れを信じるのも自由だ。その自由には『信じる小神の変更』、つまり改宗の自由も認められている。そうそうある(・・)ことではないが、例えばディゴール在住の人が南方の熱砂帯に移住することになったとして、その灼熱の日差しにユーメルヴィーグへと祈りを捧げるようになるという事例がそうだ。


 それは許される。では、信じる大神を変えることは?


 それは、異端。《人界》で言えば魔神崇拝やら龍神崇拝が該当し、征討軍の討伐対象となる。


 どう違うというのか。小神改修と、大神改修。俺なんかは、そう考えてしまう。それこそが異端の証左と知りながら、しかし思考は止められない。


「お止めなさい、イールーパ。ここは彼らの地、私たちはその厚意で通り抜けさせていただいていること、忘れてはなりません」


 ……そういえば。


 彼女だけは、そういうの、ないな。


 征討軍、神聖騎士が、《魔界》や魔族に対して。


 魔王軍精鋭兵や侍女が、《人界》や人族に対して。


 本能的に抱くはずの隔たりがどうにも見えない(・・・・)。それがいわゆる王族ゆえの特異性なのか、単純に演技が上手いのか、判別はつかない。彼女なら人族と友好的に振舞うこともできなくはないように思えるから、内心がおっかないんだ。


 もっと言えば、そもそもからして奇妙な話。


 《魔界》同士───《魔界》アディケードと《魔界》インスラも対立関係にある。同じ《魔界》と呼ばれていても、彼らが相容れないのは事実。おそらくだが、ヒウィラにとって《魔界》インスラに嫁に行くことも、《人界》ヤヌルヴィス=ラーミラトリー……つまり此処に嫁に来ることも、本質的には同じはず。それは生贄にも等しい苦痛のはずなのに、彼女はそれをちらとも窺わせない。


 ヒウィラ───君は、いったい何なんだ?

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