147話 悪嫁攫取その5
さあ、聞こう。
「いいですか、タンタヴィー。私が使命を帯びた身なのは分かっていますね」
「は。御身は《魔界》インスラの大魔王へと嫁ぐという使命を宿しております」
「その通り。ですが、魔王城カカラムの城内にはそれを良く思わない者がいると、気付いていますね?」
「…………は。それは、おそらく存在するかと」
「ああも大々的に、人族を招いてまで公表すれば、それは城中の者の知るところとなります。《魔界》インスラを憎む者、あるいは他国の間諜、そういった輩がこの婚礼を阻止したいとき、一番簡単な方法は何でしょう? はい、答えなさいムクジュ」
突如として指名されたのは《蛮魔》。彼は聞き入っていたので狼狽しはしたが、論理的に回答する。
「そ、それは、姫様を排除すれば婚礼は実現不可に───」
「その通り」
返答にヒウィラは深く頷く。
「私を殺せば、私は《魔界》インスラに嫁ぐことはできない。自明の理です。ですから、そこで彼です」
今度は俺を示す《悪精》の姫君。俺も狼狽する。
俺は殺そうなどとは考えていなかったが、実際にはヒウィラの婚礼をぶち壊そうと考えて彼女を誘拐した。───という旨を伝えるのではなさそうだ。
俺のことを救世主なんて表現したのは、どういう魂胆だ。
「彼は私の身を案じて私のもとを訪ねました。そこで私は彼と一計を案じ、単身で城を出ることを決めたのです」
タンタヴィーの表情を苦渋が満たしていく。彼は自分の仕える姫君が、何を言いたいのか察しつつあるようだ。けれど上位者に抗弁する訳にもいかず、表情で示すくらいしかできないのだろう。
俺も多分、似たり寄ったりの顔。
「狂言誘拐を演じれば、妨害派はこれ幸いと乗りかかるでしょう。対して私に忠実な者であれば、こうして馳せ参じる。───おめでとう、貴方たちは合格です」
俺は当然、そんな事情ではないと知っているし、タンタヴィーらもそれは承知しているだろう。そんなことはヒウィラも理解しているが、その上で言い訳にもなっていないような言い訳を押し通すつもりか。
彼女は俺に振り向くと、いけしゃあしゃあとウィンクをしてみせた。どうせ、『これは借りだから遠慮なく恩に着てくれたまえ』とでも言いたいのだろう。事実、俺は彼女に助けられたことになる。ヒウィラが口車でどうにかしていなければ、俺は兵士か魔術師か、あるいは《信業遣い》かも分からないタンタヴィーたちを相手取ることになっていたから。それを収めてしまわれれば、俺は黙るしかない。それが例え、俺の望む方向性とは真逆でも。
やられた。これが魔族の姫君。これが、ヒウィラという女───!
舐められたもんだなと口の中だけで呟く。
彼女は俺がタンタヴィーたちにやられると、戦えば分が悪いと考えたから庇ったんだろう。事実戦いになれば俺は防衛と逃走に徹していただろうが───負けるつもりはないってのに。
結局ヒウィラのやつ、婚礼についてどう思っているのか白状していない。魔王に命じられたからとか、俺の安全のためにとか、そんな理由ばっかり立てて、状況に従うばかりだからそれが何より気に食わない。
お前はどう思ってるんだ、ヒウィラ。
それを絶対に暴いてやる。




