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141話 遣魔使節その4

 城下町、と言うのだそうだ。


 俺はフィゼンから遠ざけられてしまったため彼の流暢な説明が半分くらいしか入ってこないが(それでも半分は聞こえるあたりよく通る声だ)、《魔界》───カヴラウ王朝にも《人界》と同じように都市があって、魔王城カカラムとその周辺に広がる城下町は最大の人口を誇るらしい。


 ……それが《魔界》一なのかカヴラウ王朝一なのかは、精査の余地がありそうだ。なにせ情報源はフィゼン、いくらでも誇張できる。そもそも、複数の魔王が乱立し争っている《魔界》では、一方の言い分ともう一方の言い分がまるっきり正反対の可能性も考えられる。


 フィゼンの言が信用ならないのは今に始まったことではない。そもそも、俺たちを誘い、魔王が歓待していると告げたのもどこまで本当か。道中で油断させておいて、城に入ったところを袋叩きにするつもりかもしれない。


 事実、魔王軍は俺たちと親密になりたいようには到底見えない。あちらはあちらで上官に命令さ(・・・・・・)れているから(・・・・・・)手を出さないという空気を隠さない。常に警戒を厳にして、いつでも俺たちと戦えるように備えている。


 ───俺たちと同じように。


 《人界》の子らは、誰もが、魔族とは決して相容れないと教わる。悪いことをすれば叱られるときはいつも「そんなことだと魔族がやってくるよ」だし、極悪非道の悪党を罵るなら「魔族みたいなやつ!」だ。魔族とは《魔界》の神を信奉する野蛮にして非道の存在であり、一切の容赦はなく人族を殺すものである、と信庁は説く。事実、《経》を越えてやってくる連中は暴虐の限りを尽くす。


 それというのも、魔族は《魔界》の神を信奉するからだ。


 ───人族とどこが違う? 信じる神が違うだけだ。


 彼らにも恐れはある。あの顔を見ろ。魔王軍の兵士たちは、俺たちを恐れている。城下町に入っても、沿道の民たちはみな、俺たちが魔族(・・・・・・)を見るのと同じ(・・・・・・・)目をしている。恐るべき仇、おとぎ話や夜話でしか語られない大敵。それが軍を成してやってきた、そういう目だ。


 例えば、神聖騎士筆頭ディレヒトが決定し、聖都に魔王軍を迎え入れたら。きっと住民たちは同じ目をするんだろう。指導者ディレヒトの気持ちが分からない、どうしてそんなことをするのか、指導者の決定には従うが、大丈夫なのだろうか。そう考えている。


 《悪精》の瞳は、人族とは真反対。白目の部分が黒く、虹彩は淡い色であることが多い。それでもそこに込められる感情は、人族のそれと同質同等なのだと、俺は魔王城カカラムへの道すがら感じていた。


 誰しもが感じている、不安と恐怖と疑念を。


 ───魔王アムラは、いったい何を企んで人族を《魔界》に引き込んだ?




◇◇◇




 魔王城カカラムには広大な庭園がある。広場とも呼ぶべきそこが、俺たち《人界》からの使節と、魔王アムラが君臨するカヴラウ王朝の対面の場として選ばれた。いくら魔王城と言えど征討軍連隊二千名を引き入れられる広間はなく、かといって《魔界》で分断されるような状況は《人界》使節団が受け入れない。魔王もそれを理解しているから、では開けた屋外でとなるのは自然な流れだった。


 城壁に守られた内側である庭園は、完全に手入れされた芝生に覆われているにも関わらず、征討軍連隊二千名と魔王軍連隊数千名を優に収容できる広大さを誇る。そこに整列して待つ俺たちと魔王軍。


 ふと、何か新しい音が生まれた。


 それは太鼓のリズムであり、徐々に強まり期待感を煽る。リズムには管弦楽の旋律が加わり、これから来たる者を迎え入れる準備を整える。……魔族にも、優れた楽師はいるんだな。


 奏楽を伴って、幾人かの魔族が城内よりその姿を現した。煌びやかな装束は、それだけで高位魔族───魔王とその係累であろうと推察できる。彼らはゆっくりと歩を進め、ちょうどいい位置で立ち止まる。この場合のちょうどいい(・・・・・・)位置とは、つまり魔王城の天守の直下、その威容を最大限に活用でき、かつ、その背に魔王軍の部隊を従える位置だ。


 中心の男性が立ち止まった瞬間、奏楽がぴたりと止まる。


「《人界》よりの客人よ、よくぞ来た」


 深く厚みのある声は、さして張り上げているわけでもないのに───それこそフィゼンよりも穏やかな声だというのに、庭園全体に響き渡る。


「余こそは魔王。カヴラウ王朝第十二代魔王たるアムラ・ガラーディオ・カヴラウ=アディケードである」

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