136話 人魔境界その9
厳密には無いわけではない、という。
自分を小神であると称するバスティには、見知った人間の縁を手繰って、その人の神のしるしを感知できるという特殊能力がある。縁のラインが太ければ太いほど、つまり関わり合いが深い相手であればあるほどに感度が上がる。緊急時の強い感情まで覚知できるのはそのためらしいが、それについては今は置いておいて。
「彼だけじゃない。君の幼馴染、ニーオもどちらかと言えば薄いんだけど、際立ってるね。ガンゴランゼはそんなこと全然なかったから聖究騎士だけなのかも」
「神を信じてはいるけど、『けど』がつく程度ってことか」
「多分そんな感じ。内心は推し量れないけれどね」
なら、思っていたよりは慌てることでもないか。
異端として裁かれ、《虚空の孔》刑にまで処された身の俺としては。やはり裁いた神聖騎士───聖究騎士が俺と同じ異端かもしれないと聞いて、心穏やかではなかったのだが。
「神に愛されているあかし、神のしるし。それが薄いってことは、一種、神に縛られない自由人ってことだ。君と同じに何をするか分からないから、気を付けてってのはそういうこと」
「褒められたと受け取っておくぜ、今は。しかしそうか、ニーオよりもか……」
それはゾッとしない話だ。彼女も何事か企んでいる節があったのは去り際の会話で感じられたが、それ以上となると……。
「……多分だけど、彼は餓えているんだ」
「というと、何に?」
「戦いか……あるいは、血に」
大ハシェント像の下で襲い掛かってきたときに、彼は俺が《光背》を出したとたん瞳を輝かせていた。魔王城に招かれたと聞いて、ならば行って来て討滅しようと言ったときにも同じ瞳をしていた。そして、
───それは、まだ……斬ったことが、ないな。
あの言葉。あの呟きは、漏れ出た彼の祈りだったのではないか。
「彼は、魔王を斬るだろう」




