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133話 人魔境界その6

 信庁に要請していた応援が到着した。


 聖都から派遣された征討軍一個師団。これほどの動員がなされるのは極めて稀で、それこそサンザリーエアの安定《経》から魔王軍が本格的侵攻をしてきた、とかでなければ起こらない異常事態だ。


 それを、命令ひとつであっさりと成し遂げる聖究騎士、《割断》のロジェス。


 この《人界》を統べる最高権力者の一角は伊達ではない、ということか。


 もちろんこの人数を全員《魔界》へ送り込むわけではなく、大多数は《人界》に駐留。ロジェスが選ばれた部隊を率いて《魔界》へ向かい、魔王を討伐するのが主目的となる。一個師団の派兵は、その後の事態収拾のためのものだろう。


 ───魔王が討たれればその国は必然混沌に陥ると予想される。《魔界》の王たちは群雄割拠、どこぞの国の王が墜ちたと知れば即座に攻め込むだろう。その対応をせざるを得ない以上、《人界》への追撃は片手間になる。その対応ならば一個師団で十分という判断、納得はできた。


 しかしここまでで分かるように、俺たち《人界》の人族は《魔界》の動向を本質的には理解できていない。あくまで予測と思考でしかないのは、《人界(・・)には国という概念(・・・・・・・・)が存在しないからだ(・・・・・・・・・)


 小神が君臨し、その意を受けて信庁と神聖騎士、征討軍が統治する《人界》には、血統による統治を行う王はいない。あるのは各都市を治める都市政庁のみで、それだって代替わりは選挙制。


 《魔界》の王に一番近い存在は、《人界》で言うなら一都市を《信業》で支配する、我欲に堕ちた神聖騎士だろう。それにしたって、そいつの子供が《信業遣い》として目覚めるかは神の御心次第だし、権勢を誇ればすぐさま信庁に滅ぼされるからなるべく支配を隠そうとするしで、実態は全然異なるけれど。


 俺たちは国を知らず、王を知らない。彼らの住居、城というものもよく分からない。大きくなって防壁を構築した都市と、どう違うのだろうか?


「……どんな感じなんだろうな、《魔界》」


「さあ? でもキミはいいよなっ、その目で見て来れるんだから」


 拗ねているバスティは置いておいて。


 俺は呼び出しを受けていた。


 これまでにもディゴール都市政庁からたびたび呼ばれていた俺は、今回もその類だろうと踏んでいた。───その予想は、大きく外れることとなる。


 ムルタン氏(どうやら俺と都市政庁の仲介役を任されているらしい)の案内で通された一室、俺を待っていたのは、


「ユヴォーシュ、久しぶりだな。元気にしてたか?」


「……アレヤ部隊長!?」


 征討軍時代の俺の上官、アレヤ・フィーパシェックその人だった。




 都市政庁に用意された小綺麗な一室で、机を挟んでアレヤ部隊長と向かい合っていると、何かを思い出すと思ったら───定期の昇任面談だ。だから妙に緊張するのか。あれは一対一ではなくもっと上の階級の人もいたが、彼女とこうして対面で話しているとやはり落ち着かない。


「それで、今の今まで私に連絡のひとっつも寄越さなかった理由は、何だ。言ってみろ」


「……それは…………その───」


 忘れていたなんて言えるハズないだろう。口ごもる俺に、


「きをつけエッ!」


 部隊長だったころとまったく同じ一喝に脊髄反射。彼女はあまり好まなかったが、それでも指示に従わなかったり遅れたりすれば鉄拳を飛ばすことに容赦はしない人だった。


 ああもう観念して白状しよう、実のところ、何だかんだ言って、旅が楽しかったりですっかり連絡を忘れていただけだって。そう洗いざらいゲロるつもりで、けれど染みついた習性が彼女の号令なしに口を開かせない。


「休め! ───まったく、もごもごと口を濁してもしようがないだろう。怒らないから素直に言え」


 前線(この)都市を救うのに奮闘していたんだろう? そう柔らかく微笑んで労おうとする彼女に、俺は、




 とりあえず、頷いておくことにした。

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