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130話 人魔境界その3

 会議室にいくつもの声が飽和する。


 同時多発的な主張が干渉して、結局俺の耳には何も届かなかった。


 その中で、俺はそっと挙手をする。


「何だ? ユヴォーシュ」


「その都市直轄の代行、俺が拒否ったらどうなるんだ?」


「別にー? お前が請けようが拒否ろうが、アタシは帰るってだけだよ」


 丸投げかよ!


 もともと、ある程度大きくなった都市には神聖騎士が派遣され、都市を直轄する決まりになっている。探窟都市として成立していたディゴールには都市を直轄する神聖騎士はいなかったのだが───そこらへん、どうやって躱していたのか詳しくは知らない。ディゴールの自治を勝ち取るのは並大抵の苦労ではなかったはずだ───《魔界》への安定《経》が出来てしまった以上、そうはいかなくなっていた。サンザリーエアのように、安定《経》のある地は信庁の直轄となる、と厳に定められているから。


 《真龍》の最後の悪足掻きを止められなかったのは俺の落ち度、俺の力量不足だ。だからニーオにどうにかしてくれと頼んで、その代わりに西方へ赴くことになった。そこまではいい。対等な取引、対等な関係だ。


 それを、こいつ! 面倒になったか何だか知らないが、ブチ壊しにしやがった!


 俺がふざけるなと突っぱねれば、あるいは殴りかかって言うことを聞かせようとすれば、ロジェスはこれ幸いとディゴールの権益を持っていくだろう。


 だがロジェスにしても、俺を排除することはニーオの面に泥を塗ることにつながるから、どうにも手を出せなくなる。


 俺とロジェスとニーオで三つ巴、三意を分立させて均衡状態を作り上げやがった。必然、俺はニーオの代行の位置に収まらざるを得なくなる。


「───いいよ。請けてやる。やってやろうじゃないかよ、くそ!」


「それでこそ。さてそれじゃあ、あとは任せるぜ」


「……ディゴール都市政庁と冒険者組合としては、どう考えてるんだ?」


「先ほどハバス・ラズが申しましたように、ユヴォーシュ様とロジェス様のお力を借りて魔王軍を撃退できれば、と考えています」


「なるほどねぇ……」


 ロジェスをちらりと見る。何を考えているのかは分からないが、信庁から任された仕事なら彼も途中で投げ出して俺に剣を向けたりはしないだろう。肩を並べて戦うにしてもおっかないが、実力は確か───というか、俺が知る限りでは最強の《信業遣い》。頼りにはなる。


 魔族にも《信業遣い》は存在するだろうが、たぶん実力的には《絶滅》のガンゴランゼくらいのもので、真に強く警戒すべきは魔王と呼ばれる頂点のみだろう。そこをロジェスに受け持ってもらえば、そんなに危ないことにもならないような気がする。


 よし、これなら───


「俺が力を貸すといつ言った」


 纏まりそうだった話を根底からひっくり返すんじゃねえよ《割断》の!


 会議を静聴していた最重要人物の放言に、一同ざわつく。信庁から全権を委任された聖究騎士とは思えない無責任ぶりへの困惑が八割がたをしめていて、真意を確かめなければならないがそれができるのは俺くらいしか居そうにない。


「───どういう意味だ?」


「今の話、乗れば俺とお前はこのディゴールの守護者として語り継がれることになるだろうな。そうしてこの街に釘付けで、やってくる魔族どもを退治する役目を延々と続けろということか? 冗談ではない」


 それは確かに、うんざりする話だな。


「ならば、ロジェス様は如何になさるおつもりですか?」


「フッ」


 笑うロジェスに、俺は少し前のニーオに近しいものを感じた。自分の立場を理解していて、その強権に物を言わせて無茶苦茶する奴の余裕が下地にある。


「単純な話だ。招くというなら応じるまで。魔王城、いいじゃないか」


 そしてその上で浮かぶ表情は、どこまで行っても餓えたる獣の如し。とても言葉通りには捉えられないが、さりとて制止できる人間もこの場にいない剥き出しの渇望だった。


「どうするかは行ってから決める。───だが、人魔相容れないのだから、最終的にやる(・・)ことは分かり切っているだろうがな」


 ───俺はそれ(・・)を知っている。


 かつて、大ハシェント像の足下で対峙した時の───あの歓び(・・)だ。

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