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125話 旅程完遂その1

 ───かくして、『バズ=ミディクス補記稿』は回収された。


 ウィーエは全く改心などしていないので目を離せない。おかげでずっと気が抜けないし、事実エリオン真奇坑を出てからこれまでに二度ほど、俺の目をかいくぐって禁書を読もうとしてきた。しょうもない奴だ。


 とはいえそんな暗闘ももう終わり。───カストラスの義体の新造と、バスティの壊された義体の修理が完了したのだ。


 あのあと、エリオン真奇坑最奥であったことは列挙するだけでも色々あった。


 ウィーエから聞き出して、球体に封印されていたカストラスとクァリミンを救出。彼女と、《冥窟》の入り口で伸びていた弟───《幻妖怪盗》クィエイク、そして魔術戦に負けたとやらで気絶していた《冥窟》の主マゴシェラズから事情聴取をして、俺はようやく何があったのかを知った。


 クァリミンが二人いたのは、いわば肉体したいのクァリミンと精神のクァリミンだったらしい。


 エリオン真奇坑とは死亡したクァリミンを蘇生するための実験施設であり、精神だけは復元に成功したものの肉体については未だ実用段階になかった、ということらしい。精神のクァリミンが動き回れたのは一種の魔術生物───《幽従》のかたちを与えていたからだが、結果的に彼女の脱走を引き起こしてしまった。確かに物質透過すら可能な彼女なら、閉じ込めておくことは難しかろう。


 《屍従》がうろついていた第一層、実際の大きさよりもずっと大きく見せていたまやかしの第二層と、ヒントは至る所にあった。言われてみれば納得できるが、実際に歩いている間にそれを推察していたという魔術師連中は一体どういう洞察力と推理力をしているのだろう。


 とまれ、死んだクァリミンをどうにか生き返らせるべく、クィエイクとマゴシェラズは随分あれこれ手を出した。《幻妖怪盗》もその一環で、研究資材調達や《冥窟》維持の資金繰りのため、手っ取り早く金になりそうなものを盗んでいたという自供がとれた。『バズ=ミディクス補記稿』を盗んだのは、そこになら死者蘇生の魔術について載っていないか、という一縷の望みを託しての犯行だったそうだ。


 カストラスの「そんなもの載っていないよ」という一言であっさりと無意味になったわけだが。


 クァリミンは、二人に自分のために手を汚してほしくないという。彼女の蘇生のために開かれた《冥窟》は、命知らずの冒険者たちを呑み込み《屍従》にして研究材料にしている。弟も窃盗に手を染めている。そんなことは止めて欲しい、と。


 しかしマゴシェラズに言わせれば、今の《幽従》の状態はそう長く維持できるものではない、やがて消えてしまう。それでは私が助けてもらった恩を返せない、何としても助けたい、と。


 互いの主張は互いの幸福を祈るもので、それゆえ平行線が続く。


 にっちもさっちもいかないので、俺がどうにかすることにした。


 全く、こういうときに《信業》は本当に便利だ。




 ガンゴランゼと聖讐隊は魔術でひとまとめ(・・・・・)に包んで、適当な街まで空輸させた。その街の駐在騎士が見つければ、まあ保護してもらえるだろう。


 理の庵の連中は丁重に埋葬する。彼らのために折ってやる骨といったら、生憎俺にとってはその程度のものだ。


 そしてクィエイクとマゴシェラズは───信庁に出頭すると決意した。二人の目的は果たされた以上、罪は清算しなければならない。どれほど重くともそうすると決めたのだから、俺たちに口出しする余地はない。クァリミンも納得しているようだった。


 だからやり残しは───あと一つ。

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