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118話 賢人愚行その2

 ───魔術師同士の戦い。


 彼らは自らの優劣を競うのを目的としての戦いを主とする。つまり、倒したから勝ちではなく、優れているから勝ちと証明する必要があるのだ。


 持てる力をすべて出し切る。


 そして相手の力を悉く受け止める。


 意識の外から奇襲したり、魔術以外の手段で騙し討ちしたり、数にものを言せたり、そういうのは魔術師の決闘ではあってはならない蛮行だ。そんなことをしても相手が負けを認めることはないし、何より自分自身を納得させれられない。


 ここエリオン真奇坑の最奥、開けたスペースで始まるのは、そういう一種の行事。


「我、スフォルク・フォージンゲリオが挑む。崇高なる魔術師の戦を。賭けるは虜囚」


「……我、マゴシェラズ・リリシェピンが受ける。悠遠なる魔術師の戦を。賭けるは《冥窟》。いざ───」


「「始めよう」」


 二人、揃った声が合図。


 マゴシェラズが高速で結印する。詠唱は小さく、短く。


 対するスフォルクは懐から瓶を取り出し叩き割る。こぼれた液体がひとりでに魔法陣を描く。これも彼の魔術。


 初撃は同時だった。


 スフォルクの足下から湧き出でる無数の手は、墓の下に埋まっている死者の概念を呼び起こして使役するもの。その攻撃はしかしスフォルクに届くことはない───透き通った結晶体が、薄い一枚の殻にも関わらず完全に防いだのだ。


 宙に浮かぶ透明の球体は、完全であることを誇るがゆえに傷つけることができない。老健なスフォルクの得意とする防御魔術に、マゴシェラズが歯噛みする。アレを破るには今以上の手間暇をかけた魔術が求められる。そうしてカードを切っていったとき、最後には積み重ねた年月できっと彼は敗北する。


 そうなれば失うものは全てだ。


 だが手段を選ばず誇りをかなぐり捨てて、そうやって挑んでも太刀打ちできるかは怪しい。マゴシェラズにあるものは友人クィエイクの助けと、築き上げたこの《冥窟》。しかし友とは連絡が取れず、《冥窟》はすでに踏破され理解され尽くしてしまっている。今更頼ろうにも役立たず。


 ───勝ち目がない。


 染みついた魔術師としての反射が行使の手を止めることはないが、彼の冷静な思考は「これは悪足掻きに過ぎない」と判断を下してしまっている。集中を欠いた状態で均衡を維持させる甘いスフォルクではない、あっという間にマゴシェラズは地から生えた巨腕に握りしめられた。


「もう終いか、つまらんな。久々に本気の魔術戦を楽しめるものと期待していたが」


 やる気がないのなら無理強いすることもない、早々に決着としようぞ───そう宣言するつもりだったスフォルクを、背後から(・・・・)容赦なく魔術で(・・・・・・・)攻撃する者があった。


 ウィーエことウィリエイオ・シーエ=カストラスは、空間転移する(とびこんでくる)なり二人が魔術師の決闘中だと看破して、その上で躊躇なく割り込んだのだ。


「小娘が! 崇高なる魔術師の戦を、乱入などで侮蔑するかッ」


「勝手にやってればいいじゃないですか。カストラス家(うち)は、そういうの付き合わない方針なんです。世の魔術師の頂点に立っているのは、自明なので」


 さらりと圧倒的な自負で言ってのけながら、彼女は内心でマズいなと考えていた。クィエイクから強奪し(かり)た《直通鍵》でエリオン真奇坑最奥まで一足飛ばしで突入し、《冥窟》の主を奇襲して制圧してしまおうと考えたのに、この状況は何だ!


 数を引き連れる爺は、おそらく潜ってきた側。それと対峙する男が《冥窟》の主だろうが、魔術で構築した怪腕の彫刻に握りつぶされている。一時的に手を組むならあちらだろうが、それにしたって結局は敵なのだ。《直通鍵》を奪ってきていることを理由に背後から撃たれるかも知れないと考えれば、敵の敵でも敵のまま。


 孤軍奮闘する趣味はない、もう一度《直通鍵》で引き返して───


 そう判断した直後。




 あらゆる魔術の(・・・・・・・)行使が阻害される歌(・・・・・・・・・)が、エリオン真奇坑の最奥に響き渡った。


「おーおー、いるわいるわ、カスどもが」


 乱雑な口調でゆっくりと踏み入る男の姿を捉えて、室内の魔術師たちは残らず震え上がった。


 ガンゴランゼが、そこにいた。

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