112話 真奇攻落その6
ガンゴランゼ・ヴィーチャナは魔術師である。
信庁の管轄においては祈祷神官としての資格も持つ、ということになっているが。実態はまごうことなき魔術師である。非認可の《奇蹟》であっても、有用であれば躊躇うことなく行使する。
時には、彼の行使の後追いで認可が下りることさえある。神聖騎士は信庁の顔であり、彼らが行使するのであればそれは《奇蹟》である、という論理。
神聖騎士には、ヒラであっても、圧倒的な裁量が認められる。
彼女らも、その一つ。
「ガンゴランゼ様。聖讐隊、全員揃っております」
「ああ。讃頌式《奇蹟》の維持は怠るンじゃねえぞ。ここは敵地だからな」
「はい」
ガンゴランゼに付き従う、一糸乱れぬ隊列の少女たち。二十人ほど数えられる彼女たちは、誰もが無表情でも美少女と分かる容貌をしている。揃いの隊服は白を基調に折り目正しく、どこから見てもガンゴランゼの従者というスタイルを貫いている。
名を聖讐隊。ガンゴランゼ直属の祈祷神官部隊である。
ユヴォーシュが彼と初めてコンタクトした日から、彼女たちは密かに一行を監視していた。気取られない距離を保って、その人員をフル活用して、彼らを逃がさないように。
ロジェスやニーオのように、単独でいかなる状況をも打開し得ると自信する聖究騎士たちとは違う。彼は自身の限界を知り、それでも足掻くために数を求めた。
すべては、あの日の■■を焼きつけるため。
すべての魔族と異端者とそれに与する者を絶滅させるべく、ガンゴランゼ・ヴィーチャナと聖讐隊は進軍を開始する。
◇◇◇
俺は足を止める。
「デェェェっケェええ……」
目の前に広がるのは大空洞。足元のタイルとかで人の手が入っているように見えるから、たぶん正しくは大広間なんだろうけど、果てが見えないからとても人工物とは思えない。
廊下と階段と曲がり角の迷宮をぐるぐるぐるぐると回って、それ以上は何もないままどうやら階層とやらを越えたらしい。
最後の階段を下りた先、新たな階層は見渡すこともできない無窮の空間だ。
どこに誰が、何がいるか知れたものではないので大声を出すのは差し控える。足音が距離に吸い込まれて消える、反響すらしない。この大空洞のどこかに次の階層へ進む道があるはずだが、果たしてどこにあるのやら。虱潰しにしようとすれば、それこそ一月だって遣い潰してしまえそうだ。
「いくら《冥窟》内で、ある程度の物理的・建築的な必要性を無視できるからって、こりゃやり過ぎだろう」
非論理式《奇蹟》や《信業》で強化された視覚で見通せず、聴覚でも反響を感知できない。これほど広大な空間を地下に掘り広げるには一体どれほどの労力を……と思いかけて、そうじゃなかったと思い出す。
『《冥窟》の内部構造というのは物理的空間に存在するわけじゃない。そうだとしたら、《冥窟》を義体に置き換えた《真龍》は地中に埋まってしまうだろう?』
そう言っていたのは探窟都市ディゴールで、あのア……アセ……何とか言う《真龍》を倒した後のバスティだ。俺はそのとき、よく分からないなりになるほどそういうものかと思った記憶がある。特異領域とか言ってたっけ。
ふと疑問がわく。この《冥窟》内で俺が全力で大暴れして、それこそ《冥窟》の核を破壊したらどうなるんだろう。《冥窟》がつぶれたときそこが実空間ならば生き埋めになるだけだが、特異領域───魔術的空間ならばどこに行くことになるんだ?
考えたところで、祈祷神官でもない俺の脳ミソでは大した考えは浮かばない。結論として大暴れするのは止めておこう、と決める程度で、俺はとにかくだだっ広いそこを当てどなく歩き続ける。




