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111話 真奇攻落その5

「どうなってるんだッ、マゴシェラズ! どうして姉さんが!」


「叫ぶなよクィエイク!」


 そういう自分も大声を張り上げているのに気づいて、《冥窟》の主マゴシェラズは顔をしかめる。


 色素の薄いクィエイクは、なるほどやはりクァリミンの姉弟と言われても納得できる。《幻妖》の傾向として普段は何を考えているのか分からない表情の薄さをかなぐり捨てて、混乱と激昂を露わにしているから美男子という印象を受けない。


 それに対峙するマゴシェラズは人族。長い黒髪をざっくばらんに分けた男性で、大きな机の正面に展開された画面───エリオン真奇坑各所の映像と、魔術的ステータスを表示したディスプレイである───から片時も目を離すことなくクィエイクに対応している。


 二人の視線は、ディスプレイの一画に移る女性───クィエイクの姉であるクァリミンに注がれている。


「彼女は───脱走したんだ。ここから」


「ちゃんと閉じ込めて、見張っておけよ! 姉さんは、あんなことがあって、どんな手段を使ってでもどうにかしようって二人で決めただろう!」


「副作用だ仕方なかったんだよ! 僕の結界をすり抜けてしまうなんて思いもしなかった! 戻ってきてくれたからいいものの───」


「じゃあさっさと連れ戻せよ最奥ここに! どうして姉さんに《冥窟》探窟させてるんだ!」


「《冥窟》の主(マスター)は万能じゃない! 例えば彼女を《転移》させるのだって、そういう罠をあらかじめ仕掛けておいて踏ませないと無理なんだ!」


 マゴシェラズの弁明はその通りで、例えば歩いているクァリミンの足元、まさに次の瞬間に踏むタイルを罠にするような後出しは不可能である。


 ……《冥窟》とは、一定の区画ブロックから構成されている。区画内に何か、別の意思を持つ者が存在する限り、その区画は改造することはできない。


 厄介なことに、クァリミンの同行者───彼らはその名を知る由もないがカストラスだ───は、自分たちの進む先の区画が改造されたのを敏感に察知し、罠の類を悉く回避・解除・無効化して進んでいる。マゴシェラズが入り口に充満させた欺瞞魔術、分断の霧を一部なりとはいえ無効化したことといい、魔術師。《冥窟》支配の手の内にも詳しいとくれば、排除は容易くない。


 悪いことは重なるもので、どうにかしなければならないのは他にもいる。


 複数人で固まって、分断の霧を完全無効化して突入してきた魔術師軍団、理の庵。


 《屍従》の群れを振り切った少女二人、これはクァリミンと魔術師の連れ。


 そして最初に突入してきて、なぜか一度戻ったあと再突入してきた青年剣士。


「ああもう、どれから対処すれば……!」


 マゴシェラズは熟達の魔術師だが、《冥窟》の主としては新米もいいところだ。だから彼自身が知らないのも無理はないが、こういう錯綜した事態に対する適性は、実は低い。


 悩むばかりで有効な手を打てない彼に、クィエイクが焦れる。


「俺に渡した最奥への《直通鍵》、あれは二人でも有効だよな!? なら俺が姉さんを迎えに行くから、お前は他のヤツをどうにかしろ! いいな!」


 《冥窟》の主も常時《冥窟》内で生活するとは限らない。外に出たくなった時にわざわざ最奥から各階層を逆順に踏破して出て、帰りは他の探窟家のように順に階層を踏破するのでは大変だ。だから《直通鍵》という《遺物》を作り、外と最奥を行き来できるようにする。エリオン真奇坑にもいくつか用意されているうちの一つを預かるあたり、クィエイクはやはりこの《冥窟》の運営に一枚噛んでいるのだ。


 彼が《直通鍵》を使うと姿が一瞬でかき消える。それを見送ったマゴシェラズの背後でディスプレイがひどく耳障りな音を上げる。


 入口の分断の霧が何か(・・)を感知した警告音だ。ただ飛び込んできただけならそもそも音は鳴らず、カストラスや理の庵のように干渉したのを確認すればそれなりの音はなるが、ここまで刺激的ではない。


 これは完全に無効化したよりも上。分断の霧そのものを、それ以上の力で破壊された際に鳴るよう設定された警報だ。


「馬鹿な、これは───!」


 マゴシェラズはディスプレイに移る映像に絶句する。今日だけでもううんざりする来客があったのに、それは底でも何でもなかった。最悪がそこにいた。


 右半分は目が隠れるほどの長髪、左半分は逆立った短髪。左右でくっきり分かれているのは髪型だけではなく、髪色まで二色になっている。誰が見ても不機嫌と分かる凶相でじろりと画面越しのマゴシェラズを睨んだと思ったら、ディスプレイは何の情報も受け取れなくなって沈黙する。───監視機構が破壊された。

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