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110話 真奇攻落その4

 祈祷神官、と世間一般で言えば、もちろんとんでもないインテリ様という認識である。


 事実、《奇蹟》───認可魔術であろうと、非認可であろうと、魔術行使は極めて複雑な演算と観念的な認識転換が要求される。現実事象を自己認識で歪曲し、成果を抽出するためには知識と知性が不可欠だ。


 だが、彼らインテリは、必ずしもひ弱なデスクワーカーとは限らない。


 多くの祈祷神官は非論理式《奇蹟》を修めていることもあり、そんじょそこらの腕自慢では返り討ちにあいかねない。


 当然、彼らの中には身体を動かすのが根本的に苦手な人間もいる。術師よ高尚たれ、というポリシーのもと、荒事を遠ざける人間もいる。


 いるからといって甘く見て喧嘩を売って、生っちろい細腕でぶっ飛ばされてから後悔しても遅いというだけの話だ。


 命令に従うだけの低劣な《屍従》には、そんな感情は無縁である。


 一体目は核となっている魔術をウィーエに看破され、一発で解除されたことでただの死体(・・・・・)に戻った。それがどうした。彼らに刻まれた命令は《冥窟》に進入した者の排除、その中に同僚を案じる権利は含まれていない。


 死後硬直でギシギシいう関節を酷使して、彼らは緩慢にでも走り出した。


 二体目、三体目まではウィーエも間に合った。片手の指を折るくらいは倒せたのかもしれない。


 百をゆうに越える人波は、倒れた死体を踏み潰して押し寄せる。


 到底、ウィーエだけの手に負える数ではなかった。


 なりふり構わず全力疾走。ウィーエには非論理式《奇蹟》があるし、バスティは歩幅こそ狭いがカストラス製義体なこともありかなりの俊足だ。


 いくつもの角を曲がり、階段を昇り降りし、どこをどう進んだのか記憶するなんて、到底無理だと諦めるほど手あたり次第に進んで、


「……撒いたかな?」


「た、多分……」


 生身のウィーエは強化すれども息が切れる。ぜえぜえと膝をついて動けない彼女の代わりにバスティが曲がり角の向こう側を警戒し、感覚器官に奴ら(・・)の足音が届いてこないことを確認する。


「やれやれ、ユーヴィーがいればあんな連中、薙ぎ払わせてチョチョイのチョイだってのに」


「あ、あの人、やっぱり、強い、んです、ね」


「強いよ。敵なんかいないくらい。あの程度の《屍従》なんて敵じゃない」


「そんなに」


「なんせ一度は《真りゅ(ドラゴ)……っと、これは機密オフレコだった。忘れてくれ給え。まあだから、敵に回さないことを勧めるよ」


「大丈夫です。そんな心配は無用ですよ」


「本当かい? ハッ、もしや敵はボクか!? ユーヴィーをモノにするにあたって最大の障害がボクだと気づいてしまったようだね! よろしい、どこからでもかかってきなさい!」


「いやいやいや、ないですよ。私、恋愛とか結婚とかするつもりないので。魔術と結婚するので」


「えっ、でもキミ、カストラス家の次期当主なんだよね? 跡継ぎとかどうするの?」


「他にも支系いえはありますし、私に必要になったら創りますよ。魔術で」


「───そっかぁ、そういう家かぁ」


 魔術師に常識は通用しない。彼らはウィーエの言う通り、魔術にその身を捧げることを誓いもしない人種だ。《《そうある》》のが当たり前、三大欲求よりも知識欲を優先してしまうような、そしてそれを異常とすら感じないような破綻者たち。


 そうでなければこんな《冥窟》を築きはしないし、そんな《冥窟》に踏み込みもしまい。

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