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104話 禁書捜索その8

 こうなっては仕方ないと、俺は“アルジェスの水煙草”亭の部屋を(宿の主人には何も告げず)引き払って、仲間たちの揃っている“テグメリアの止まり木”荘に戻ることにした。


 《掌握神域》ですら捕捉・感知できない《幻妖》。その存在と、彼女のもたらした情報を精査するには俺一人では無理だ。


「……なので、済まない。もう一度同じ説明を繰り返してもらうことになるが……」


「構わないわ。まずは自己紹介から」


 一同の視線を一身に受けても、彼女は気負うことなく立ち上がって、


「私は《幻妖》、名をクァリミン。昨今巷を賑わせている《幻魔怪盗》の───多分、姉よ」


「ええ!?」「姉!」「いやそれより《幻妖》って言ったぞ」「《幻妖》と《幻魔》の姉弟ってことか!?」「というか『多分』ってどういうことです!?」


「待て皆、一斉に喋るな。ツッコミたいのは分かるが落ち着け」


 あらかじめ事情を聞いている俺以外、全員が驚きを隠せずにいる。気持ちは分かる。分かるが同時に話せばぐちゃぐちゃになる。今は彼女の自己紹介を優先すべきだ。


「まず、私は《幻妖》。これは名の通り幻か霞のように姿を消せる妖属で、ほとんど数がいない上に《妖圏》から出てくることは稀な種族」


「聞いたことあるか? 《幻妖》について」


 俺の問いかけに全員が首を横に振る。そうだと思った。もちろん俺も、彼女に会うまで存在を知らなかった。


「《幻魔》というのは知らないけれど……。聞いた限り、たぶんそれは《幻妖わたしたち》と混同して伝わっただけだと思うわ。姿が見えないのにそこにいる、足音がしない、気配もしないし鍵も閉めたのに大事なものが失われる。そういうことが、私たちには可能だから」


「私たちが勝手に《幻魔怪盗》と呼んでただけで、実際には《幻妖怪盗》だったわけだ」


「そう。そして私は、私以外にもう一人、この辺りにいる《幻妖》を知っている」


「それが弟さん……ですか」


「ええ」


 カストラスとウィーエが交互に確認していく。やはり魔術師たちは話が早い。


「名前はクィエイク。あの子が《幻()怪盗》よ」


 実の弟についてきっぱりと言い切る彼女に、ウィーエがおずおずと手を挙げる。


「あのー、そう仰る根拠とかは……」


「……そうね。あの子は、友達とつるんで悪いことに手を染めてしまっているの」


「なるほど、そいつは良かった」


「あ?」


 いきなり何を言いだすんだこのおっさん(カストラス)は。相手のことを慮るって機能が欠如してるのか?


「《幻妖怪盗》と誰か特定の人物に接点があるのなら、その人物のところで待っていればいい。《幻妖怪盗(あちら)》からのこのことやってくる」


 ……こいつ頭いいな!


 俺が感心していると、クァリミンがふるふると首を振る。


「私もそれは考えたけれど、不可能よ。その人は魔術師で、彼の居所は《冥窟》なの」


 クァリミンは、それで十分な説明になると思ったのだろう。俺たちがその人(・・・)のもとへ向かうことを断念するのを。


 俺はウィーエとカストラスを見て、次にバスティとシナンシスを見た。


「何とかなるだろ」


 生憎とどっちも初体験じゃないんだ、俺にとっては。




 目的地は、ゴルデネスフォルムから南の位置に存在する人工《冥窟》。そこが《幻妖怪盗》クィエイクと関係のある魔術師の根城だという。俺たちは満場一致でそこへ向かうことを決めた。ただ一人、クァリミンを除いて。


「断言するけれど、とても危険よ。命の危険があるかもしれないわ」


「はっはっは、殺せるものなら殺してみろという話だ」


 と笑うのは不死者カストラス


「魔術師製の《冥窟》、一度は見ておきたかったんですよ。まさかこんなに早くその機会が訪れるとは思わなかったですけど」


 と答えたのはウィーエ。


前回(ディゴールの)は《冥窟》踏破って感じじゃなかったからねえ。今回は本格的な探窟ができるね」


 と囁くのはバスティ。


 シナンシスは、「私は近辺までは同行するが中で起こることに用はない。さっさと禁書とやらを回収しろ」とだけ仰せになってそれきりだ。

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