ボロアパートで温牛乳(ホットミルク)
俺は健太。20歳の美大生。
彼女は2歳年上の冬子。
わがままで美大に行き親に半勘当の身の俺は、公園で彼女に出会ってそのまま部屋に転がり込んだ。
寒いボロアパート。
互いの肩にもたれ合い、手を握って空いてる手には一双の手袋を分け合って座っていた。それがとても幸せだった。
彼女の給料14万8千円では二人暮らしはかなりキツいが、ヒモのように甘えていた。
冬子に小遣いを貰って画材を買う。
彼女は居酒屋でバイトを始めたが俺は生活を改めなかった。こんな生活から出て、幸せになりたいって考えてたんだ。
彼女に当然のように甘え寄り掛かる。冬子が仕事に出掛けると、絵を描きに外に出る。イーゼルもキャンバスも彼女に買って貰ったものだ。
それに適当に筆を走らせると現れる。
「こんにちわ。健太さん」
「ああキミか」
大学の後輩の彼女は大会社の社長令嬢だ。そんな彼女は父に与えられたマンションのアトリエに誘うのだ。
俺にも、俺の絵にも気がある。これは運が向いてきた。
冬子とでは、工場で働きながら休日に絵を描く程度だが、後輩とうまく行けば一生ぬくぬくと絵を描いていられる。幸せになれるぞ!
冬子と別れよう。部屋に帰って荷物をまとめようと戻ると、なぜか冬子は部屋にいた。
「健太おかえり。ココア作ろうと思ったら牛乳しかなかった。寒いでしょ。ホットミルク飲もうよぅ」
寝巻き姿だ。具合悪くして早退したのかな?
俺は寒い部屋で毛布に包まって壁に寄り掛かる。そこに冬子がやって来て、毛布に入り込んで手を繋ぎ、もう片手で一つしかないカップに入ったホットミルクを渡してきた。
「こうすると温かいよ」
彼女はいつものように微笑む。
……そう。そうなんだよ。温かいよな。
なんで俺は一人で幸せになろうと思ってたんだろう。冬子が具合悪くしたのも無理して働いてるからだ。
それを俺は自分のことだけ考えて──。
「俺バイトしようかな?」
「へー。いいんじゃない? 家賃ちょっとは入れなよ。そしたらお小遣いあげるよー」
「今も貰ってるし」
「あれは画材代」
やっぱり、一人じゃ幸せになれないよな。寒い部屋だって寄り添えば温かい。二人で働けば旅行にも、結婚だって。それが俺達の幸せだよな。
「将来は幸せを絵にしたい」
「プ。なにそれ」
「その絵はさ。冬子がいないと完成しないんだ」
オレは泣いてた。さっきまで最悪の選択しようとしてたクセに。
「何言ってんのよォ。クサイよ?」
コツンとおでこを叩かれた。冬子ゴメンな。