冷たい心に温かい飲み物を
本日ラストです。
バックヤードに入った俺は、ヒーターの側に近寄ってからサンタの衣装を脱いだ。
全てを脱ぎ終え、下着姿になった俺はロッカーを開けて白いワイシャツに黒いズボンを着てその上に茶色のエプロンを身につける。
そして、サンタの衣装はバックヤードにある机の上に畳んで置いておき、俺は水瀬の元へ戻った。
バックヤードの扉を開け、オープンキッチンに入った俺は一度手を洗い、伝票とボールペンをエプロンのポッケに入れカウンター席に座る彼女に話しかけた。
「お待たせ、何にするか決まったか?」
「ううん。まだ決まってないよ。なんていうか……その、さっきまで状況について行けてなくて、今ようやく頭の整理がついたとこだからメニューを見れていないんだ」
水瀬はそう言ってメニューを指差して苦笑いを浮かべる。
「そうか、なら一杯目は俺が勝手に出して良い?」
「じゃあ、そうしてもらって良いかな?私ここに来たことないから何が美味しいとか分からないし」
「なら、この店でとびきり美味しいのご馳走してやるよ」
俺は水瀬に笑いかけ棚に入っているマグカップに手を伸ばした。
俺はそこに牛乳を入れラップをして、電子レンジで温める。その間に抹茶の粉ボールに大さじ一さらに追加で砂糖とお湯を大さじ1ずつ入れスプーンである程度混ぜてだまがなくなったらスプーンをハンドミキサーに持ち替えさらに混ぜていく。
「もしかして、それダルゴナコーヒー?」
水瀬はどうやら俺が何を作っているのか察したようで、カウンター越しに話しかけてきた。
「あぁ、そんな感じ。でも、抹茶で作ってるから一般的なダルゴナコーヒーとは味がかなり違うから楽しみにしててくれよ」
「うん………ねぇ、湊川君はここでいつから働き始めたの?」
俺が話しながらでも作業が出来ることが分かったからなのか、それとも単純に沈黙になるのが嫌だったのか水瀬は俺に質問をしてきた。
「そうだな〜、大体1年くらいじゃないっけ。去年の夏からバイト始めたのは覚えてるから」
「結構長いんだね。だからそんなに作るのもスムーズなんだ」
「スムーズって言っても、ダルゴナコーヒーは割と最近できたメニューだからあんまり作り慣れてないけどな」
「そうなの?それにしては淀みなく作れてるよ」
「これ結構好きだから、家でもたまに作るんだよ。そのおかげかもな」
水瀬とそんなことを話していると、十分粘り気が出たのでミキサーを止め、耐熱ガラスで出来たグラスを棚から取りそこに、レンジで温めておいた牛乳を入れそこにスプーンで先程混ぜ合わせた物を乗せて粉糖を軽く振りストローを刺して完成だ。
「はい、お待たせしました。ダルガナコーヒー抹茶版です」
「うわぁ、抹茶で作るとこんな色なんだね。美味しそう」
「熱いから気をつけて飲んでくれよ」
水瀬は俺からドリンクを受け取ると、机の上に置きストローでかき混ぜ飲む。
しばらくストローに口を付けたままだった水瀬は、口を離して感想を言ってくれた。
「これすごく美味しいよ。コーヒーとは違って優しい苦みだから砂糖の甘さと絶妙に噛み合って、私はコーヒーで作るのよりもこっちの方が好きかな、なんて言うか優しい味がするから」
水瀬はそう言って小さく微笑み、またストローに口を付けた。
「口にあったようで良かったよ」
「また飲みに来たいと思うくらいには、好きだよこれ」
「別にレシピは簡単だから家でも作れるから、わざわざここに来ることはないぞ?」
「そこは、店員さん何だから、思ってなくても言っちゃダメだよ」
「だって、水瀬にまた来てくれって言ったら黒瀬や坂柳も来るだろ?黒瀬は口が堅いから俺がここで働いてることは言わないだろうが、坂柳はポロッとどっかで言いそうだからな」
俺が名前を出した二人は、クラスで水瀬がよく一緒にいるメンバーだ。黒瀬は黒髪ロングで、大和撫子の美人さんで、坂柳は金髪の天真爛漫な美幼女で帰国子女。
クラス内では、水瀬を含めたこのグループが飛び抜けて容姿が優れておりクラスの男子が誰が好みかって話をするときは大抵この三人だ。
坂柳は、さっき説明した中に天真爛漫と言ったことか分かる通り思ったことをすぐに口から出るので、俺がここでバイトしていることを知ったら、絶対にどこかで話すだろう。そうしたら、生徒経由で先生にそのことが伝わり、俺が無断でバイトをしていることがバレてしまい反省文を書かされそうなので俺は水瀬にああ言ったのだ。
「ふふっ、確かにリサちゃんならあり得るね」
「だろ?坂柳のやつ冬休み前の日に…………」
「あれは自業自得だよね、その前も廊下で………」
「あぁ、それ俺も見てたわ。ありゃ、先生がいなかったからいいけど……」
「リサちゃんじゃなくて有馬君もよく似たようなことしてるよね」
「あいつは、馬鹿だからな。しゃーない」
「それリサちゃんも馬鹿にしてない?」
「いや、そんなことないぞ。だって有馬のあれとかヤバイぞ?女子に向かって……」
「あれは確かに酷いけど」
そう言って俺達はクラスメイトの話で盛り上がった。
この時、水瀬の表情が店に入る時に比べて少し明るくなったのを見て俺は、あの時引き止めて良かったなと思うのだった。
面白いと思った方は、宜しければブックマーク、評価ポイント、感想やレビューの方をお願いします。




